日本人の1日300Lは多い? 資源としての“水”の大切さを伝える1冊

社会

2016/1/22


『100年後の水を守る~水ジャーナリストの20年~』(橋本淳司/文研出版)

 当たり前にあるものほど、深く考える機会は意外と少ない。生きるために欠かせない「水」もそのひとつだ。水道の蛇口をひねれば、料理や洗濯に必要な水がいともたやすく手に入る。きれいな水でのどをうるおしたいと思えば、スーパーやコンビニに走ればミネラルウォーターが手に入る。

 しかしじつは、それはとても幸せなことではないだろうか。水ジャーナリスト/アクアコミュニケーターとして、世界各国の子どもたちに水の大切さを伝える橋本淳司さんの書籍『100年後の水を守る~水ジャーナリストの20年~』(文研出版)を手に取ると、私たちが知らなかった水の現実を知ることができる。

 世界的にみても「日本は水にめぐまれている」と橋本さんは語る。国土の四方を海に囲まれた立地から、湿気を帯びた風が山脈へ吹き込み雨を降らす。インド洋上からの季節風「モンスーン」の恩恵もあり、年間平均降水量は約1690ミリメートルにのぼる。

 同書にあるグラフを参照すると、エジプトの首都であるカイロでは約34.6ミリメートル。地中海にほど近いイタリアのローマですら約706.6ミリメートルと少ないことから、日本の降水量がいかに多いかがみえてくる。

 1990年半ば、かけ出しのジャーナリストだった橋本さんが、水へ関心を抱くきっかけになったのはバングラデシュでの取材だった。共用の井戸に集まる子どもたちは、取水口が真っ赤にぬられたポンプからくみ上げられた水を飲んでいた。橋本さんは、現地の女性に尋ねた。

「何ですか、この赤くぬられた井戸は?」
「この井戸から出る水は、ヒ素に汚染されているのです」

 ヒ素とは、摂取すると死に至る可能性もある猛毒だ。橋本さんが「どうして有害な水だとわかりながら飲むのですか」と尋ねると、女性は「ここには水がないのです」と答えた。さらに「川や池の水は病原菌におかされています。この井戸がほられる前、私たちは、毎日3時間以上もかけ水をくみに行っていました。それは肉体的にも精神的にもきついことでした。あなたにはわかりますか」と続ける女性に、橋本さんは返す言葉がなかった。

 以来、20年以上にわたり世界各国での水資源の調査や情報発信に努める橋本さんは、現在、子どもたちへの「水の授業」を通してその現実や大切さを伝えている。

 同書では、子どもたちへ配布されたアンケートも紹介されている。朝から晩までいったいどれほどの水を使ったのか。ある授業では、教室の真ん中に50Lに相当する25本の2Lペットボトルを置いた。それをみたからか、半分ほどの子どもたちは「だいたい50L」と答えたというが、橋本さんは「だれかの例を見ながら確認してみよう」と子どもたちへ問いかけた。

 ある男の子の例では、飲んだ水の量が2L。洗顔・歯みがきは「3分間、水を出しっぱなし」にしたというので、1分間では12Lになる計算から36L。すでにこの時点で、2Lのペットボトルを19本分も使い果たしている計算だ。

 さらに、トイレは性能にもよるが1度に10Lと計算すると、1日8回も足を運んだという男の子の例では80L。ペットボトルで換算すると、この時点で59本分に達する。シャワーは1分間に8Lの水を使うため、10分間浴びたという男の子が使った水はそれだけでペットボトル40本分に相当する80L。ここまでの合計だけでも、使った水の量は198L。ペットボトルに換算すると99本分になってしまう。

 加えて、1日3食であれば炊事に60L、洗濯には70Lほどの水が使われる。日本人の1日に使う水の平均使用量は約300Lというから、私たちが日頃からいかに恩恵を受けているのかがわかる。

 世界では「人間らしいくらしをするために1日に最低限必要な水」の量は50Lだといわれている。ゲーム性のある「1日50L生活」体験も授業へ取り入れる橋本さんだが、同書の中で「何かを教えるのではなく、気づいてもらうこと、考えてもらうことが大切だと思っています」と話す。

 身近すぎるあまり、いつのまにか水が“資源”であるという感覚は薄れているのかもしれない。しかし、誰にとっても必要なものであるのは事実で、水の大切さを伝えるのはもちろん、水不足や水質汚染など、水にまつわる問題と向き合うため橋本さんは今日も奮闘している。

文=カネコシュウヘイ