衝撃のラスト12分間。佐村河内守を追ったドキュメンタリー映画『FAKE』公開!【森 達也×浅野いにお×木村綾子(後編)】

映画

2016/6/4

視点を変えれば、ぜんぜん違うものが見えてくる

浅野 『A3』を読んでいても思ったんですけど、森さんって、麻原彰晃やオウム事件の被告人に対しても、完全には断罪できずに、何か事情があったんじゃないかと入り込んでいく感じがして。それが森さんの魅力だとは思うんですけど、それってでも、世間からしたら合理的ではないですよね。

 ……確かに風当たりは強いです。だから本が売れない。仕方ないですね。見る人によっては「森は何を言ってるんだ。とんでもない男だ」って思う人もやっぱりいますからね。

木村 『A3』は、2005年から07年まで雑誌で連載していた内容をベースにしつつ、この書籍をまとめた10年の視点や情報が介入していますよね。時制が行き来している分、死刑判決以後の社会の“無関心”という問題が怖いほどリアルに描かれていました。その中で、森さんは、事件を起こした側の視点からこの問題を捉え直そうとしていて……。これを読んで私は、いかにメディアからの情報だけで事件を受け止めて、それを当然だと感じていたかという恐怖に気づきました。

 誰かが「こうだ」と言っても、違う人から見れば違うように見える。つまり、「オウム」というメタファーを通して見える日本社会というものを書いてみたかったんです。コップだって下から見れば丸だけど、横から見れば違う形なわけで……。それは誰もが分かってるはずなのに、メディアの報道となると、あまりにも一つの視点でしか伝えていないことが多い。なぜかというと、社会がそれを求めているからです。

木村 曖昧さを許さない、白黒はっきりしている状態が一番良しとする社会って、共感しやすいというか、人と人とが連帯しやすいから。

浅野 メディアってのは視聴者の好みを反映するわけで、みんなが酷い現実から目を背けたいと願えば、楽な状態でいられる伝え方を競い合うようにする。メディアがそれぞれに違った報道をして、それによってみんなが混乱してしまうと感じれば、足並み揃えて似通った報道をする。それがずーっと続いているのが今の日本社会なわけですよね。

 つまりメディアが進化すればするほど、世界が一面化されてしまう。それってとても、もったいないと思うんです。高校時代に、ユクスキュルという生物学者が書いた『生物から見た世界』という作品を読んだんですけど、そこに描かれていた、犬や猫、ハエやダニの目に見えている世界っていうのが、僕たち人間が見ているそれとは全然違っていたんですよ。僕はそれを作品で見出したいんです。人間だって、視点を変えたらぜんぜん違うものが見れるかもしれないのに、なぜそれを誰もしようとしないのか。世間が白黒を二分することを求めるなら、それをぶっ壊してみたい、と。

浅野 僕のマンガでも、人間が勝手に「攻めてきた」と思い込んでいる侵略者の実体を過剰に弱い生き物にして、殺されまくるシーンを描いてます。侵略者は一度も人間を殺してない。それなのに、基本誰もその話をせずに日常を暮らしてる。……立場が変われば被害者は加害者にもなりうるし、目を背けながら送る日常生活ってどうなの?っていうことを感じるからこういう作品を描いてるんですけど。その一方で、こういう生き方が幸せだと感じている人が一定数いるだろうことも分かってるんですよね。だから、つくづく僕はおせっかいなことをしているのかもなって。なかなか伝わらない部分もあるし……。

 確かに商業メディアにとって、わかりやすさは重要です。でも、老若男女誰もが分かるようにしてしまうと、その表現はものすごくやせ細ったものになってしまう。大先輩の原一男さんは、「分かられてたまるか!」と言っているけれど、それでいいんじゃないかな。僕たちは、分かったことを言語化しようとあまりにも躍起になっているところがあるんですけど、言葉にできなくても分かっていることってあると思うんです。それを信じたいなと。

浅野 森さんって、こういう作品をつくり続けたら社会は変わるかもしれないと、期待してますか?

 ……そうですね。ちょっと視点を変えるだけで違うものが見えるわけで、それはお金がかかるわけでもないし、筋力や精神力が必要なわけでもない。視点を変えられないままに怒りに駆られたり悲しんだりしているのであれば、こういう見方をしてみたら?と言ってあげたいというのはありますね。救ってあげようなんておこがましさはないですけど。僕の作品の共通のテーマは、これに尽きるのかもしれない。

次はドラマを撮ってみたい。それも、ラブストーリーを

浅野 『FAKE』が公開されたら、どんな反響があると思いますか?

 どうだろう。自分がどんな作品を撮ったのか、まだ客観的になれていないので、わからないです。

浅野 僕の感覚で言うと、『A』と『A2』っていうのは、オウムっていうもの自体が若干口に出しづらいテーマっていうのがあったから、一般の人が自主的に足を運ぶには少し重いというか、わざわざ関与するメリットっていうのはあまりなかったかもしれないんですけど。今回の作品は、……言い方はあまり良くないですけど、扱ってるものが気楽な事件なんですよね。

木村 ワイドショー的というか。

 橋本佳子プロデューサーは、撮影中も編集中もずっと「早くしないと、みんなこの騒動のことなんか忘れてしまうわよ!」って言ってましたね。まあ、確かにオウムに比べれば、内実はまったく小さい騒動です。

浅野 でもだから、入り口に関しては開かれている感じがするんです。

木村 もちろん、観た上でそれぞれに思うことはあるでしょうけど。

浅野 僕が最初に森さんを知った『職業欄はエスパー』も、そもそも事件という事件ではなかったからこそ気楽に手に取れたわけであって。それをきっかけに、視点が変わることで見えてくる豊かさみたいな構造に気づけたわけだから。この作品は森さんのスタンスがよーく表現されてる映画だし、これもまた言い方が適切じゃないかもしれないんですが、これまでで一番キャッチーに出来上がってて、いいなと思うんですよ。

 観てくれた人も、もしTwitterやなんかにいろいろ書いてくれるなら、リテラシーとか難しい感想よりも、むしろ「愛と勇気と感動をもらいました!」とか言ってくれたほうがいいのかもね(笑)。

浅野 だまし討ちでもいいから、こういうものがあるんだよってことを知ってもらうのって、今、ものづくりをしてる人間にとって必要な感覚だと思いますね。

木村 次回作の構想というか、またドキュメンタリーで追いかけたいと思う人はいますか?

 それは何人かいますけど、思っていても出来るというわけではないですからね。なかなか難しいと思います。今はドラマを撮りたいですね。ちゃんとしたフィクション。ラブストーリーを。

木村 「ラブストーリーですか! でも、『FAKE』も見方によってはドラマっぽいですよね。

浅野 奥さんとの関係とかは、ラブストーリーと言えばそう言えますよね。

 もちろん二人の今の状況は普通ではない。でもだからこそ、普遍的なラブストーリーを形にできたとの思いはあります。

取材・文=木村綾子 写真=野村佐紀子

 

【前編はこちら】感想を言うことさえ試される、視点と解釈が錯綜する『FAKE』

 

映画『FAKE

監督・撮影/森 達也 プロデューサー/橋本佳子 撮影/山崎 裕 編集/鈴尾啓太 制作/ドキュメンタリージャパン 製作/「Fake」製作委員会 配給/東風 2016年 日本 109分 
6月4日(土)より、渋谷・ユーロスペース、横浜・シネマジャック&ベティにてロードショー、ほか全国順次公開

『A』『A2』以来15年ぶりの監督作。佐村河内守氏の自宅でカメラを廻し、その素顔に迫る。取材の申し込みに来るメディア関係者、外国人ジャーナリスト…。はたして何が本当なのか? 誰が、誰を騙しているのか? 2014年、世間を賑わせた「ゴーストライター騒動」は、この社会に瀰漫する時代の病をあぶりだしながら、衝撃のラスト12分間へとなだれ込む。

(C)2016「Fake」製作委員会

 

映画『FAKE』の公開を記念して
森達也監督『A2 完全版』の上映が決定!

映画『A2 完全版』

6月18日(土)~24日(金)連日21:00~
7月9日(土)~15日(金)連日21:00~
渋谷・ユーロスペースにてレイトショー

 オウム真理教(現アーレフ)の広報副部長であった荒木浩と他のオウム信者たちにカメラを向け、オウム事件の本質に迫った森達也の代表作『A』の続編。公開から14年、2002年の劇場公開時にカットされた幻のシーンを入れた完全版で劇場初上映。

(C)「A」製作委員会
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