トレンド発信者「フィクサー」を観察する「パリピ」、それを追う「サーピー」以下の存在! 市場を動かす巨大消費モデルの構造【原田曜平インタビュー後編】

社会

公開日:2016/6/16


『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす(新潮新書)』(原田曜平/新潮社)

⇒前編はこちら

 ハロウィンやセルカ棒などのブーム火付け役は「パリピ」(パーティーピープルが転じてパーリーピーポーの略)だというのを前編で紹介したけれど、実は彼らは、流行を最初に生み出す存在ではない。トレンド発信者であるイノベーターは「フィクサー」と呼ばれる人たちで、富裕層のジュニアや帰国子女、DJやカメラマンといったクリエイターなどがそれに該当する。パリピはフィクサーの近くにいて、彼らが身に着けるアイテムや動向を観察している。そして自分たちでも楽しめそうなものを積極的に導入することで、パリピでいられるのだ。

 フィクサーは自分たちが好きなものやハマっていることを、自分たちのなかで楽しもうとしているのに対して、パリピは「拡散したい」「色々な人とつながりたい」と思っている。とにかく「この楽しさを友達たちに伝えたい!」から、SNSを駆使している。こんなパリピたちを追うのが「サーピー(アーリーマジョリティのサークルピーポー)」で、さらにその後追いをするのが、「パンピー(レイトマジョリティの一般ピーポー)」なのだという。では一体、サーピー以下の子たちはどこでパリピを探すことができるのだろう?

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「今の子たちはSNSでつながっているので、知り合いの中からパリピっぽい子たちを探して影響を受けています。全然知らない人を検索して、カッコいいからとフォローすると、逆にひかれてしまいますので(苦笑)。パリピは人間関係が広く、1回どこかで会った人とはすぐに相互フォローの関係になったりします。こうしてどんどん人間関係が広がっていくのが、彼らの特徴です」

 そこでふと思ったのだけれど、たとえばパリピ同士の覇権争いはないのだろうか? 「お前ダセえから黙ってろ!」みたいな、それこそバブル時代の「お立ち台争い」的なものを想像してしまうのだけど……?

「基本的に皆ラブ&ピースの子たちで、一緒に調査したパリピの子たちも、とにかく笑わせてくれる子ばかりでした。ノリ重視の子が多いので、どっぷりした親友関係にならないんです。争いがまったくないとはいわないけれど、今の大学生から20代半ばの世代は人の悪口をあまり表に出さず、優しい振る舞いができる子が多い印象です。うちの研究所にはフィクサーもパリピもオタクもいますが、皆で一緒に出掛けたりもしているし、相手を見下すようなこともありません。争って人に勝っても得られるものが少ない時代に生きている子たちなので、人を蹴落とすよりは『皆でシェアしようぜ』ってノリになっていますね。そういう意味では、未来への不安が大きい世代でありながら、楽しいことや面白いことを探して常にハッピーでいられるパリピたちは、この時代にとって貴重な存在だと思います」

 ハッピーに楽しく騒いで、それでもって市場を動かす力を持っている。企業にとってはまさに「パリピ様さま」だと思うけど、なぜ今まで彼らに注目することができなかったのだろう?

「インタビュー調査をしていても、最初の段階ではまず出てこないからです。たとえば大学生に『誰の影響を受けていますか?』と聞いて『友人のAさんです』と答えた場合、そのAさんはパリピではないことが多い。なぜかというとパリピの人たちは、付き合いがある子たちから見ても賛否両論なので、『この人です』と言ってしまうことに躊躇があるんです。たとえば女性ならパリピは露出が多い服を着てクラブで騒いでいたりするので、ちょっと斜めに見られてしまうことも多い。だから『あの子の名前を挙げると、同類と思われないかな。ちょっと恥ずかしいな』と思われてしまう半面、影響も受けてしまう。そんな子たちなので、パリピ自身も自分をパリピと呼ぶことにためらいがあったりします。むしろ『自分、パリピだし~』とか言ってるのはサーピーやパンピーでしょうね(笑)」

 パリピが火を点けてくれればマイルドヤンキーが影響を受け、そのアイテムを手に取ってくれる。モノが売れないと言われているけれど、パリピと出会うことができて彼らの「好き・カッコいい」がわかれば、ヒット商品を生み出すことも夢じゃないかも。ということで私も今年こそは、ハロウィンを毛嫌いせずに参加してみようかな、って、それじゃパンピー丸出し?! 失礼しました……。

取材・文=玖保樹 鈴