文芸・カルチャー

宇多田ヒカルのデビュー曲に女子高生のPHS…現在アラサー以上なら共感必至!1999年が舞台の異色青春ミステリー

『分かれ道ノストラダムス』(深緑野分/双葉社)

 2015年に刊行した初の長編『戦場のコックたち』(東京創元社)が各社のミステリーランキング上位にランクイン。直木賞、大藪春彦賞、本屋大賞と名だたる文学賞にも次々とノミネートされ、「ブレイクするとはこういうことか!」と世の小説好きを驚かせたミステリー界の新鋭・深緑野分さん。その最新作にして第2長編『分かれ道ノストラダムス』(双葉社)が刊行された。

 本書のもっとも大きな魅力は、どこに転がってゆくのか予想がつかない、起伏に富んだストーリー展開だろう。波瀾万丈、奇々怪々。センチメンタルに幕を開けた作品は、少しずつサスペンスの度合いを増し、ハラハラドキドキの大冒険へとなだれこんでゆく。本書を手にした読者は、小さな町で起こった大きな事件の顛末を、ジェットコースターにでも乗るような気持ちで楽しめばいい。

 高校1年生の日高あさぎは、2年前に病気で突然命を落とした男友だちの基(もとき)が遺した日記を遺族から託され、彼が死なずに済んだ可能性について考えるようになる。心臓が弱かった基は、中学2年のある夜、眠ったまま世を去った。その死は本当に避けられなかったのか? どこかで違う選択をしていたら、死なずに済んだのでは? あさぎはSFに詳しいクラスメイトの八女(やめ)君に協力してもらい、基の生前の足取りをたどりはじめた。もちろんそんなことをしても、基が生き返るわけではない。それはあさぎにもよく分かっている。しかし彼に思いを寄せていた彼女にとって、死を詳しく検証することは大切な行為なのだ。

 ところが、そんなあさぎの周囲で、奇妙な出来事が相次いで起こるようになる。夜道を歩いていたあさぎを尾行する謎の人影。八女君の友人である熱帯魚店の店主の失踪。そして巷を騒がせているカルト教団「アンチ・アンゴルモア」内での不可解な死の連鎖。過去を追いかけていたはずのあさぎは、いつしか現在進行形の事件に巻き込まれてゆくことになるのだ。

 察しのいい方なら「アンチ・アンゴルモア」という教団名や、作品のタイトルからお気づきだろうが、本作は1999年を舞台にしている。つまりフランスの予言者ノストラダムスが「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」と予言した年だ。あさぎのクラスメイトが、「やべえ、世界が終わるぞ、世界が!」「どうしよう、本気で怖いんだけど」と騒ぎ立てるシーンは、日本全国の学校で見られた光景。世界滅亡までのタイムリミット(実際にはなにも起こらなかったのだけど)というシチュエーションが、透明感のある青春小説にいい意味での“歪み”を与えており、ユニークな作風を作りあげている。

 また、リアルに描かれた1999年当時の世相も読みどころ。街中で宇多田ヒカルのデビュー曲が流れ、女子高生のケータイはまだPHS(持っていない子は公衆電話)。パソコンでネットをしている人も少数派で、ゲームの『ぷよぷよ』が大人気。あさぎと同世代の作者によって描かれた地方都市の1999年は、現在アラサー以上の人なら「そうそう!」と懐かしくなる要素が満載。当時を知らない世代には、現代と似ているようで少し違う、20世紀末のライフスタイルが新鮮に映ることだろう。

 過ぎ去った日々を探ることから始まったこの物語は、現在進行形の大事件を経て、あさぎと八女君の未来を描いたシーンで幕を閉じる。あらためて言うまでもなく人生は「分かれ道」の連続。そして人は2つの道を同時に選ぶことはできない。だったら選んだ道を迷わず、まっすぐ進むこと。そんなメッセージが、波瀾万丈のストーリーから読み取れるような気がした。

 青春+ミステリー+ノストラダムスの大予言、という不思議な足し算。しかしこの中のどれが欠けても、本書のユニークな面白さは生まれなかっただろう。「双葉社創立70周年記念刊行作品」にふさわしい、普遍的な魅力をもった作品。『戦場のコックたち』とはまた違った、作者の小説達者ぶりを見ることができる。

文=朝宮運河


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