スピルバーグ監督のドリームワークスが映画化決定! NYの高級レストラン業界の内情を描いた話題作

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公開日:2016/11/15

『美食と嘘と、ニューヨーク おいしいもののためなら、何でもするわ』(ジェシカ・トム:著、小西敦子:訳/河出書房新社)

 人気の観光地であり、美食でも有名なニューヨーク。セレブが集う高級店や最先端のレストランなどが密集し、世界中の人を魅了してやまない街だ。ニューヨーク在住の友人がFacebookにアップした写真を見ていると、明日にでも行きたい衝動にかられてしまう。

 しかし、どんな世界にも“裏側”がある。ニューヨークの高級レストラン業界にも、私たちの知らない一面はあるのだ。『美食と嘘と、ニューヨーク おいしいもののためなら、何でもするわ』(ジェシカ・トム:著、小西敦子:訳/河出書房新社)では、そんな華やかな業界の内側が赤裸々に描かれている。

 著者はブルックリン在住のライター兼フードブロガー。ニューヨーク市内のレストランや料理、接客業に精通した人物だ。その彼女が業界の裏側を描くのだから、面白くないはずがない。

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 主人公は大学院生のティア。ニューヨーク大学の食品学修士号コースに在籍中だ。学部生時代に書いた記事が話題となり、ニューヨーク・タイムズで採り上げられたこともある。食に関する興味を追求し、優しいボーイフレンドに支えられ、苦労しながらも着実に夢に向かって進んでいる。そんな時、ある著名なレストラン批評家に出会うのだが、彼には大きな秘密が隠されていた。若く野心に燃えるティアは、批評家との出会いによって新しい世界を知り、人生を翻弄されていく…。

 高級レストラン業界では、ニューヨーク・タイムズでのレストラン批評が絶対。いつ自分たちがターゲットになるのか、星の数は増えるのか減るのか、戦々恐々とする関係者の様子が、リアルに描かれている。批評家がつけた星が減ったことで閉店に追い込まれる店も出てくるのだから、まさに死活問題だ。

 もうひとつ、印象的なのは料理の描写。高級レストランで出された料理から、おやつに食べるジャンクなスナックまで、読んでいるだけなのに嗅覚と味覚が刺激されてしまう。食べていないけれど食べたような気持ちになり、でも食べていないので食欲がわいて仕方がない。筆者は読んだのが深夜ということもあり、空腹との闘いになった。

 魅力的なのはレストランや料理の描写だけではない。人物描写も絶妙で、その人の顔まで思い浮かんでくる。ファッショナブルで奔放な女性や、頑固で変人の批評家、噂好きな女友達など、バラエティに富んだ人物が登場する。一方のティアは、服装には無頓着で地味な学生だったのだが、批評家との出会いをきっかけに、ファッションに目覚めオシャレに変身していく。

“ニューヨークを舞台にしたオシャレなグルメ小説”だと思っていたのだが、いい意味で期待を裏切られた。突然、激しく動き始めるティアの運命。映画『プリティ・ウーマン』のようなシンデレラストーリーと、背後で渦巻く大人たちの狡猾さや欲。その波に揉まれながらも確実に成長していくティア。

 ちなみに原題は『Food Whore』。Whoreには「売春婦、娼婦」という意味があり(出典:リーダーズ英和辞典)、「食べ物のためなら何でもする人」という意味で使っているそう。なかなか衝撃的なタイトルだが、内容もそれに劣らず驚きの連続だ。食に興味がある方、ニューヨークに憧れている方、華やかな世界をのぞきたい方など、多くの方にオススメしたい一冊。ただし、空腹の深夜に読む時には気をつけて。

文=松澤友子