亡くなったあの人は、私に何を伝えたかったのか? 届くはずのない1枚の郵便はがき。「折り紙」を通して紡がれる恋愛とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『この青い空で君をつつもう』(瀬名秀明/双葉社)

雑誌連載時より、本作の舞台のモデルとなっている静岡市で大きな反響を呼んでいる『この青い空で君をつつもう』(瀬名秀明/双葉社)は、女子高生の切ない恋愛と成長を描いた青春ラブストーリーだ。

本作の主人公はある地方都市に古くから店を構える和紙店の一人娘、早季子(さきこ)。高校では美術部に所属している。あるクリスマスの朝、自分宛に届いた差出人不明の一枚のはがきが、突如折り紙のように、生き物の形に折られていた。

早季子は不可思議な状況に驚きながらも、折り紙が好きだったある男性のことが頭を過ぎる。早季子が小学生だった頃、祖父の折り紙教室に通っていた同い年の少年。高校一年生の時に再会したあの人。密かに、恋心を抱いていた青年、望月和志(もちづきかずし)だ。しかし、和志からはがきが届くことはあり得なかった。なぜなら彼は、もうこの世にいないのだから――。

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謎のはがきの差出人を探しながら、早季子はつらいこと、嬉しいことを重ねて、充実した高校生活を送る。学校行事に、部活動。友人関係。様々な出来事が起こる中、早季子は目を背けていた和志との思い出と向き合い、彼の死について考えるようになる。そしてラスト、はがきの謎が解ける時、和志の死を受け入れられなかった早季子が、未来への一歩を踏み出すのだ。

本作は、あらすじを読んでなんとなく想像していたネタ明かしとは大きく異なっていた。「亡くなった人からはがきが届く」「そのはがきが動き出す」という前情報があったので、「不思議なことがフィクションの世界だから起こる」、限りなくファンタジーに近い内容だと思ったのだ。

しかし実際は違った。本作は亡くなった人が都合よく生き返らないし、幽霊になって現れることもない。非科学的なことは一切起こらない。ただ、早季子は折り紙を通して和志の死と向き合う。一日一日を大切に生きている中で、和志が遺した「驚くべき」折り紙が彼女の心を溶かしていくのだ。

そこにあるのは限りなく「リアル」で、思いのほか科学的だ。死んだ人が蘇ったり、時空を超えて過去と未来を行ったり来たりと、現実では有り得ないことが起こり、それをきっかけに主人公が成長していく物語はよくある。フィクションの特権でもあるが、本作はそういったことがないからこそ、「人の死」について、また、「未来と過去」について、真摯に考えさせてくれる。

それでいて高校生の早季子を主人公にしているため、重苦しい難解な内容ではなく、青春のさわやかさを感じさせる、懐かしく温かい雰囲気を醸し出している。そして、フィクションの世界ではない「現実」でも「奇跡」は起こると思わせてくれる、希望の一冊でもあった。

折り紙を通して「未来で出会う」早季子と和志。本作では折り紙が大切なモチーフとなっているのだが、本文のこの一文がとても心に残った。

「折り紙では、表と裏はつねにひとつだ。包む側は、つつまれる側でもある」

人と人とのつながりも、そういうものなのかもしれない。
さわやかで、切ない青春ラブストーリー。読み終わった後は、透き通るような青い空を見上げてみよう。つつまれているのは、きっと自分も同じだと気付くはずだ。

文=雨野裾