いきなり診断書を送りつけて休職!? 今増えている「新型うつ病」とは?

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更新日:2016/12/26

 日本中で困った若手社員が急増しているらしい。「叱られるとすぐ休む」「いきなり診断書を送りつけて休職」「休職中に海外旅行」などなど。これらに共通しているのは、どの社員にも「うつ症状」があるのだ。ただのワガママと捉えられがちだが、『すぐ会社を休む部下に困っている人が読む本』(緒方俊雄/幻冬舎)の著者でSOTカウンセリング研究所所長の緒方俊雄氏によると、「新型うつ病」だという。一体どういうことなのだろうか。10年以上にわたって「新型うつ病」と格闘してきた緒方氏の見解を紹介していこう。

■新型うつ病とは

 新型うつ病を説明するには、まず従来型のうつ病の説明をしなくてはいけない。従来型のうつ病は、中高年の几帳面で真面目で忠実な人に多く見られる。うつ病を発症すると、一日中憂鬱な気分が抜けず、身体的な症状も現れる。しかし本人は他人に迷惑がかかるのを嫌い、なかなか医療機関で受診しようとしない。頑張りすぎてしまう人がかかりやすいのだ。

 一方、新型うつ病は、若い世代に多く、学校では優等生だった人に多く見られる。最大の特徴は、仕事以外では症状が軽減することだ。休職した途端に海外旅行へ行けるほど回復してしまうこともある。しかし、出勤時間や休職期間の終わりが近づいてくると、急に症状がぶり返すのだ。

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 さらに、従来のうつ病患者とは違い、医療機関の受診に積極的だ。新型うつ病はとても勘違いされやすく、ついつい本人の気質のせいと思い、上司が叱責してしまいがちだが、それでは改善しない。新型うつ病を発症させてしまう家庭環境や日本社会に原因があった。

■生まれるべくして生まれた新しいうつ病

 従来のうつ病患者は、親から受けた愛情が乏しく、厳しい家庭環境で育った人が多い。したがって愛情を求めるようになり、他人(上司)や会社に依存し、頑張りすぎて発症する。反対に、新型うつ病患者は、母親が過保護で過干渉であることが多いという。子どもに愛情を注ぐのはいいが、過保護になると、子どもの成長を止めてしまう。子どもは、親の保護をより享受するために勉強を頑張る。すると親は子どもをほめ、より過保護で過干渉になる。こうなると反抗期もクソもない。共依存の関係となる。大人の子ども化だ。最近では、大人になりきれていない大人が増えている。モンスターペアレンツやクレーマーがいい例だ。そんな大人がまともな子どもを育てられるわけがない。家庭での教育が崩壊しているというわけだ。

 さらに、ゆとり教育も一因だ。弊害はいくつもあるが、その中でも教師が生徒を叱れなくなったというのが大きい。私がゆとり世代なのでよく分かる。叱られて育ってこなかったので、他人から叱られたとき、どうしていいか分からない。まだ要因がある。人間関係の希薄さだ。これについては語るまでもない。コミュニケーション能力不足の若者が増えた。

 そして不景気が追い打ちをかける。昔の日本企業は、人材育成に時間と労力を注いできた。終身雇用制がしっかりしていた頃のことだ。しかしバブルが崩壊し、企業の体力はなくなり、即戦力が求められるようになった。人材育成にかける余裕がなくなったのだ。ゆとり世代の新入社員に即戦力を求めると、どうなるだろうか。上記の通り、20代30代の世代は、甘やかされて育ってきた。つまりストレス耐性がない。さらにコミュニケーション能力も希薄だ。これでは働けるわけがない。新型うつ病を生みだしたのは、家庭と日本社会だ。

■対処法は?

  新型うつ病の病状の多くは「心気症」であるという。体の症状は強く出ているが、はっきりとした症状形成がないのだ。働く環境に適応できなくて、ストレス耐性がない若手社員たちは、無意識のうちに(緒方氏も述べているが、人間の防衛本能はすごいものだ)症状を表す。これを「疾病利得」といい、「病気であるうちは会社に行かなくてもいい」という利益を得る。

 しかし若手社員本人は、本気で病気と思っているので(無意識なので当たり前だ)、しっかり診断書をもらって会社を休むようになる。このとき必要な対処法は、まず「新型うつ病」という病理を理解することだ。そして若手社員の話をしっかり聞いて、信頼関係を作ること。彼らは働く環境になじめていないので、それを取り除かない限り、この病気が治ることはない。

 また、家族関係も見直す必要がある。先でも述べたように、母親などから過保護や過干渉を受けていることが多い。これでは自立した人格が形成されない。子どものままである。何より、いち早く医療機関に連れていくことである。れっきとした病気であり、根性論では到底治らない。投薬といった対症療法では効き目が薄いので、必ず心理カウンセリングを受けさせること。そして上司は必ず主治医の指示を仰ぐことだ。

 どうしても伝えたかったので、本書の内容をぎゅっとつめこんでしまった。まだまだ書き足らないので、若手社員の奇行に悩む方々は、ぜひ本書を手にとって読んでほしい。個人的には、全ての日本人が読むべき一冊と考えている。なぜか。新型うつ病を発症する若手社員たちは、日本社会の被害者ではないかと思うからだ。生まれたての赤ちゃんは、中身のない空っぽの生き物だ。そこから、様々な経験を通して学び、人格が形成されていく。この様々な経験とは、環境が大きく左右する。適切な愛情を注ぎ、親が子どもをつかず離れずの立ち位置から見守っていれば、比較的まともな大人に育つだろう。

 また、ゆとり教育なんて指導方針も決定していなければ、ストレス耐性のある子どもが育っただろう。子どもに罪はない。今の子どもが育ったのは、この日本の環境を作り出した大人たちの責任だ。「最近の若者は…」と嘆く大人たちは、甘んじて今の若手社員と向き合うべきだ。そして若手社員たちは、日本の将来を背負っている。もう甘える年齢ではなくなったのだ。こちらも甘んじて大人たちの「しごき」を受けるべきだろう。ゆとり世代である私は、このような記事を書きながら、大人たちの「しごき」を想像してわなわなと震えている。

文=いのうえゆきひろ