大切な人が、交通事故に遭ったら…被害者を苦しめる“トライアングル”に負けないために知っておきたいこと

社会

2016/12/15

『国・裁判所・保険会社の不合理な真実 虚像のトライアングル』(平岡将人/幻冬舎)

 自転車保険市場が活況だそうですね。私も対人補償の手厚いものに入っていますが、朝の通勤時間帯などは、本当に猛スピードで飛ばす人もいたりして…。自転車も免許制にしろとか、車と同じように強制保険にしろという声があるのも頷けます。交通事故なんて、起こしたくて起こす人はいないでしょうけれど、巻き込まれる可能性は、すべての人にあるんですよね。

『国・裁判所・保険会社の不合理な真実 虚像のトライアングル』(平岡将人/幻冬舎)は、交通事故被害者やその家族が、事故後の補償の算定においても苦しめられている現状を解説したノンフィクションです。著者である平岡将人氏は、交通事故被害者の裁判を数多く担当する「弁護士法人サリュ」代表。自身も勿論、交通事故相談のプロフェッショナルであり、さまざまな訴訟に携わるなかで、依頼者を救済するためには、各種制度そのものと向き合わなければならないと考えるようになったそうです。

 同書で特に注目されているのが、自賠責制度。平岡氏はこの内実に関して、本文中で幾つかの問題点を指摘していますが、そのなかでも特に、後遺障害の認定について考察を深めています。後遺障害とは、交通事故によって心身に受けた傷害のうち、これ以上治療を続けても回復が見込めないと判断された後も残る症状を指す言葉なのですが、自賠責はこの認定に際して、次のような考え方を採用しているのだそうです。

事故によるものであろうが先天的なものであろうが、すでに何らかの後遺障害(既存障害)を持っている人が、その後交通事故で”同一部位”に新たな後遺障害を負った場合、自賠責では既存障害から重くなった分(加重障害)だけを賠償するという仕組みになっている(自動車損害賠償保障法施行令第2条2項)。

自賠責は、自賠法施行令2条2項の「同一部位」を、「同一系列」と解釈する。(中略)たとえば、脳損傷や脊髄損傷のような中枢神経と、ムチ打ちなどの局部神経症状は、13番「神経系統の機能または精神の障害」として同一系列とされ、同一部位と見なされるのである。

 平岡氏は、既存障害から重くなった分だけを賠償するというこの考え方が、障害者差別に繋がると述べています。同氏は現に2015年、もともと脊髄障害があった車いすの男性が交通事故に遭い、頚椎を捻挫したことによって起きた後遺障害の賠償を求めた裁判で、勝訴判決を得ています。さいたま地裁が後遺障害認定を覆し、自賠責に男性への賠償支払いを命じたのです。

 後遺障害の認定に関する問題は、これだけではありません。平岡氏によれば、被害者の後遺障害が複数部位に残った場合、その救済はさらに難しくなるというのです。

実は自賠責保険では複数部位に後遺障害が残った場合、一定のルールに従って等級が繰り上がる仕組みになっている。(中略)
ところが、である。最下位級である14級の場合はいくつ併合しても繰り上げされないのである。13級以上はすべて併合繰り上げされるのに、なぜか14級だけは別扱いなのである。(中略)
この不思議なルールゆえにさらに奇妙な認定がなされる。併合14級がやたらと多いのである。併合14級とは複数箇所で14級の障害がある場合である。14級がいくら重なったとしても、14級にしかすぎないので被害者にしてみれば賠償される額は変わらない。
なぜ併合14級がやたらと多いのだろうか?あくまで推測にすぎないが、14級はいくら認定しても賠償額が変わらないため、どうせどこかの部位を14級として認めるなら、それ以外の部位もできるだけたくさん14級として認めてしまうのだ。すると、もし今後同被害者が将来的に別の事故に遭ったとき、同一部位をケガしても賠償額を減らすことができる。

「併合14級」という制度が交通事故被害者への補償を削り、保険会社の将来的な支出抑制を見据えた抜け道になっているというのです。

 同書のなかではほかにも、時代にそぐわない自賠責制度を見直してこなかった国の姿勢や、後遺障害の認定を担う「損害保険料算出機構」の問題、交通事故裁判を嫌がる裁判官らの存在など、交通事故被害者の救済を妨げるさまざまな困難について言及がなされています。書かれているすべてを読んで理解するのは難しいかもしれませんが、一部の内容だけでも知っていれば、もしもの時に、あなたの大切な人を守れるかもしれません。交通事故被害に備えて、まっとうな“ケンカの仕方”を教えてくれる1冊です。

文=神田はるよ