子どもが好む絵本の構造パターンとは? 絵本に求められる役割と、その物語の意味

出産・子育て

公開日:2017/3/25

『科学的に元気になる方法集めました』(堀田秀吾/文響社)

 絵本と言えば、誰しも子どもの頃に一度は読んだことがあるだろう。その経験から「絵本とは子どもが読むもの」という認識があるかもしれないし、確かに多くの場合絵本の読者は子どもである。子どもは絵本を通して、実生活ではまだ体験していない多くの出来事にであうことになる。また、絵本を読んでもらう時の語りかけ、すなわち言葉を聞いたり、物の形態・質感・形などに絵本を通して触れたりしながら育っていく。そのことから、絵本は子どもの世界を広げる大きな一助となるものであると同時に、子どもが初めてであう文学でもある。こうした背景から、絵本は子どもの成長にとって大きな役割を担っていると述べるのが『子どもと絵本 絵本のしくみと楽しみ方』(藤本朝巳/人文書院)である。

 絵本に限らず、物語には“始め”と“終わり”が存在し、そしてその間には“中”が存在する。この“中”をいかに工夫するかが作家の個性となるわけだが、ここで子どもが好みやすい絵本の物語構造をひとつ紹介しよう。それは“行って帰る物語”だ。つまり、主人公がどこかへ冒険にでかけて、最後には家に帰って来る物語ということだ。子どもがこういった物語のパターンを好む理由については、子どもの文学の名編集者であり翻訳者としても数々の名作を生み出した瀬田貞二氏は「しょっちゅう体を動かして、行って帰ることを繰り返している小さな子どもたちにとって、その発達しようとする頭脳や感情の働きに即した、いちばん受け入れやすい形のお話」だからであると述べており、さらに「とにかく何かする、友だちの所へ行ったり冒険したりする、そしてまた帰って来る。{子どもが}そういう仕組みの話を好むのは、当然」であるとも言っている。また、物語の結末として好まれるものは、これは言うまでもなくハッピーエンドであろう。子ども向けの文学において、その結末がハッピーエンドで締めくくられていることは非常に重要な意味を持っている。なぜならそれはこれから人生を始めていく人間に対して「物語(人生)には幸せな結末が待っている」というメッセージを送ることにもなっているからだ。同時に、物語の結末によって読み手(子ども)に満足感・安堵感・期待感・達成感などを残すことも重要とされている。たとえば『ピーターラビットのおはなし』では、主人公であるピーターが1日の冒険で疲れ果てて、帰宅後に具合が悪くなってしまうところでエンディングとなっている。一見して、具合が悪くなったという終わり方だけを聞くとハッピーエンドとは思いづらいかもしれないが、実はこれもハッピーエンドと言える終わり方なのだ。なぜなら、物語の中でピーターは命を落としておらず、むしろ自分の命があることに安堵しているからだ。命があることに安堵した終わり方をしてハッピーエンドと呼ぶことに差し支えはないだろう。この絵本を読んだ子どもが、ピーターと同じように安堵感を覚えるならば、それは“子どもの文学”として成功しているのだ。

 子ども向けの物語である絵本において、その終わり方はハッピーエンドが望ましい。先述した“行って帰る物語”も最後に主人公は家(または故郷)に帰り、冒険の余韻を噛みしめながらも見知った場所に安堵し、その場所に帰って来たことに満足感を抱く。子どもは、主人公を通してそれらを疑似的に体験するのだ。中には、『ピーターラビットのおはなし』のように、大人から見れば「ハッピーエンド?」と首を傾げたくなるような結末になっている絵本でもこれは同じで、最終的に安堵感などを読み手(子ども)に与える狙いが見られる。このように、ハッピーエンドを何より重視するのは絵本が「人生とは怖いものではないよ」というメッセージを子どもに送ることを役割として求められており、また、子どもに絵本の物語の意味を訊かれた時に大人が返すべき答えはこれなのかもしれない。

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文=柚兎