業界関係者がどうしても語れない「アマゾンvsヤマト」の真実とは?【前編】

業界・企業

2017/3/30

写真提供:PIXTA

 アマゾンドットコムなどインターネット通販需要が急増した結果、ついに物流業界が軋みはじめた。クロネコヤマトは宅配の増加に耐え切れず従業員の待遇を見直さざるをえない状況に追い込まれている。ヤマトでは春闘で大幅なベースアップを呑み、未払い残業代も支払いを決め、有給休暇の消化も約束した。

 それでも増加する一途の宅配便をさばききれない状況が危惧されている。従業員がもう簡単には集まらないのだ。なにしろ宅配の現場はきつい。中でもアマゾンからの荷物はヤマトの現場をさらに疲弊させる。そもそも多忙で自宅にいない人の利用が多い通販の荷物の時間指定は20時から21時の時間帯に集中する。普通の会社員ならとうに帰社するか居酒屋に繰り出している時間に業務のピークが来る。宅配の現場は残業時間帯が一番辛いのだ。

『ドッグファイト』(楡 周平/KADOKAWA)

 なぜインターネット通販の宅配の現場がここまで疲弊するのか?そこにはアマゾンとヤマトをここまで成長させてきた二重構造の顧客主義が関係している。クロネコヤマトは徹底した顧客主義だ。宅急便の配達員が必ず荷物を手渡しする理由をご存じだろうか?それは「わたしたちは荷主の代理で大切な荷物を届けに来たのです」という意味が込められている。

 そしてヤマトの仕組みは常に顧客の要望をくみ取る形で進化してきた。翌日配送から当日配送への進化、時間指定の厳守、常温・冷蔵・冷凍の3種類の温度管理が可能な配送。ヤマトはそれまでの物流業界の常識ではありえなかった付加価値をつぎつぎと生んできた。その原動力は顧客の要望をかなえるという会社としてのバリューにある。顧客第一主義でサービスを生んできたことによって、ヤマトは世界でも最強の物流網を築き上げている。

 ところがそこに二重構造が発生する。小売の業界でも「顧客第一主義」の企業が競争に勝ち上がって急成長してきたのだ。それがアマゾンである。

 通常注文でも首都圏なら翌日配送があたりまえ。そして有料会員のアマゾンプライムに加入するとお急ぎ便、お届け日時指定便がいつでも使い放題になる。はやく読みたい本、すぐに使いたい日用品が週末買い物に出かけるよりも早く、そして安く自宅に届く。そのことから忙しい現代人に強く支持されたアマゾンは、世界中で急成長した。

 顧客第一主義で成長するアマゾンが顧客第一主義のヤマトを使って宅配する。この二重構造が世界でも類を見ない便利なインターネット通販の仕組みを完成させた。今、そこに軋みが生まれてこの構造が壊れかけている。冒頭のニュースはそのことを意味するニュースなのだ。しかしどのような軋轢が両社の間に生まれているのか、業界関係者もコンサルタントも具体的には口にすることができない。それを口にすればアマゾンの秘密主義の逆鱗に触れるか、ヤマトの顧客主義を裏切ることになるからだ。

『ドッグファイト』著者・楡周平氏(photo by菅原孝司)

 楡周平氏はその報道ジレンマを見事に断ち切った。物流業界の状況を詳細に取材したうえで、それを小説『ドッグファイト』という本にすることで架空のグローバルEC企業スイフトと日本最大の物流会社コンゴウの軋轢をエンタテインメントに擬して読者に提示したのである。

文=鈴木貴博

【後編】業界関係者がどうしても語れない
「アマゾンvsヤマト」の真実とは?

■著者プロフィール
楡 周平(にれしゅうへい)1957年生まれ。米国企業在職中に『Cの福音』で衝撃デビューし、一躍脚光を浴びる。著書に『Cの福音』『クーデター』『猛禽の宴』『クラッシュ』『ターゲット』『朝倉恭介』の6巻からなる「朝倉恭介シリーズ」のほか、『フェイク』『クレイジーボーイズ』『プラチナタウン』『修羅の宴』『スリーパー』『ミッション建国』『砂の王宮』『和僑』『ドッグファイト』など多数。