「あなたが人間らしく振る舞わないと、人として扱われないんだぞ」―元電通社員による話題のブログが書籍化

ビジネス

2017/4/4

『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』(前田将多/毎日新聞出版)

『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』(前田将多/毎日新聞出版)は、元電通社員の前田将多さんが個人のウェブサイトで書いていたコラムの一部をまとめ、ブログでは語りきれない内容を大幅に加筆した一冊である。

 2016年、電通は新入女子社員の自殺が労災認定されたことにより、長時間労働に世間の非難が集まった。その痛ましい事件をきっかけに、前田さんのブログも注目を浴びたそうだ。

 初めに感想を述べておくと、この本、めちゃくちゃ面白い。

 ユーモアたっぷりの文章や、著者の「広告業界」へのツッコミは「Laugh」(笑える)であり、「電通」に限らず、幅広く「働く」ということについて書かれたコラムは「Interesting」(興味深い)。二つの意味をひっくるめて、「面白い」と感じた。

 うーん、全ての内容を記事に書きたいくらいだが、文字数的に無理なので、概要を紹介してみようと思う。

 本書は「電通」を徹底的に非難しているわけではなく、かといって完全に擁護しているわけでもない。「善か悪」という話でもなく、「暴露本」を期待している方にはおススメしない(と、前田さんも書かれている。)

 あくまで前田さんが電通の社員として経験したこと、感じたことを、ある意味「主観100パーセント」で語っている一冊である。

 第一章は、普段は表に出ることがないせいで、世間からミステリアスに思われている「電通」という企業について。その仕事内容などが書かれている。第二章は「広告業界の内側で今日も巻き起こっている、バカバカしい実態を描写」。第三章は「広告業界とそれ以外のビジネス社会にも共通する、どこかピントを外した日本人の働き方について指摘してみた」。第四章は、働く人に役立つことがあれば……、と前田さんの想いが語られている。

 読んでみて、「電通」及び、広告業界について個人的な感想を述べるなら「そりゃ長時間労働になるわな」に尽きる。

 神様みたいな存在のクライアントがおり、広告業界側の「プロ」(コピーライター、デザイナー、写真家、監督などなど)が技術の全てをつぎ込んだ渾身の一作も、クライアントの偉い方に「なんか好きじゃない」とか、「こういう文面加えて」と言われてしまえば、「プロではない人の意見」が最優先されてしまう。

 著者が電通を辞めた理由は、こういった仕事の構造が「患者の指示に従って治療を行う医師」のようだと感じたから。今の広告業界には、広告を作るために携わるその道の「プロ」への「リスペクト」が徹底的にないという。それが長時間労働につながる一因ではないだろうか。

 一方、「長時間の労働」だけが労災の原因ではないことにも触れている。

 問題は「逃げ道がないこと」「誰にも相談ができない」ことだ。仕事をしていれば理不尽なこともあるし、無茶を言ってくるクライアント、先輩は存在する。しかし、別の先輩が話を聞いてくれたり、同僚に愚痴を言えたりする環境があれば、「労働時間が長いだけでは人は死なない」とのこと。

 これは先輩からのパワハラで鬱病にかかり、休職した後輩が話してくれたことだそうで、「電通」には確かに社員が鬱になってしまうような環境があったことは事実なのだ(しかし、電通には「カッコいい大人」もいたそうなので、一概に電通を糾弾しているというわけではない)。

「広告業界」に限らず、そういったパワハラが横行する「無法地帯の業界」は存在する。そんな時、「大丈夫?」「ちょっと飲みに行こうか?」「ありがとう!」などの「小さな言動」が「殺されかけている人を救うことができるかもしれない」と前田さんは語る。

 最後に、前田さんの言葉を借りて記事を締めくくろう。

電通を含む、広告に携わる全ての企業の中で働く人たちが、今回の不祥事を通じて炙り出された自らの異常性を自覚してくれることを願う。

 また、全ての働く人へ向けたメッセージとして、私はこの文章が一番心に残った。

厳しさを増す一方のこの社会においては、あなたが人間らしく振る舞わないと、人として扱われないんだぞ。

 働き方について、悩んでいる方。感情を押し殺し、毎日我慢して生きているだけでは、世界は変わらない。笑い、泣き、怒り、助けてほしい時は差し出された手を握り、解決しない場合は「逃げる」のもアリだ。

 一度立ち止まって、「働くこと」を考えてみよう。

文=雨野裾