あのお菓子の名前の由来は? ケーキ屋さんへ走りたくなる、スイーツ界の「タレント名鑑」

食・料理

公開日:2017/4/8

『お菓子の由来物語』(猫井登/幻冬舎)

 ここぞという時に食べるものって、ありませんか? “勝負飯”なんて言葉もありますが、頭で考える作業が続く時には、糖分の補給を第一目的として、“勝負スイーツ”という選択をされる方もいらっしゃることでしょう。近年は悪者扱いされることも多い糖質ですが、甘いお菓子を頬張った時の多幸感は、やはり代えがたいもの。今回はそんなお菓子にまつわる、魅力的な本のご紹介です。

『お菓子の由来物語』(猫井登/幻冬舎)はその名の通り、現代日本で楽しむことのできる洋菓子の概要とルーツを、豊富なカラー写真を交えて紹介した書籍です。掲載されているのは、ショートケーキやクッキーといった日本でも親しみ深いものから、「ウィークエンド」や「ルリジューズ」など、スイーツマニアやお菓子の専門家でなければ姿が思い浮かばないものまで、およそ140種類。パティスリーの協力によって撮り下ろされた実物写真はどれも艷やかで、宝飾品店のカタログを思わせる眩しさです。

…ちなみに、「ウィークエンド」はグレーズを掛けたレモン風味のバターケーキを、「ルリジューズ」は大小のシュークリームを雪だるまのように重ねたお菓子を、それぞれ指す言葉だそうですよ。

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 焼き菓子から冷菓まで、幅広いジャンルをカバーする本書。そのなかで個人的に気になったのは、「ワッフル」についての項目でした。「ワッフル」と「ゴーフル」と「ウエハー」が、元々は同じお菓子から発展したものだということにも驚きましたが、その解説に続いて企画された、各国のワッフルの比較がとにかく美味しそ…いえ、興味深いのです! サクサクのベルギーワッフルに、薄焼きのフランスワッフル。キャラメルを挟んだオランダワッフルに、ふんわりソフトなアメリカンワッフル。日本でお馴染みの、二つ折りにしてクリームを挟んだタイプの起こりは、明治時代にまで遡るのだとか。ワッフルという言葉が指すものが、国によってここまで違うのかと思いながら、目を皿のようにして読んでいたら、まぶたの裏にあの格子模様が焼き付いてしまいました。ああ、視界が縞々…。

 同書はまた、雑学書としてだけではなく、あらゆる洋菓子をより美味しく・楽しく頂くためのスパイスとしても役立つことでしょう。例えば、ティラミスは夜遊びをする前に食べられていただとか、とある理由で「ミゼラブル(悲惨な)」と名付けられたケーキがあるだとか…。そんなバックボーンを知ると、途端にひとつひとつのお菓子が、ドラマティックな存在のように思えてくるから不思議です。

 それにしても特筆すべきは、著者である猫井登さんの、お菓子に懸ける情熱です! 専門的な勉強を始めたのは、なんと40歳を過ぎてから。しかも、当時勤めていた大手銀行を退職して、専門学校へ進まれたのだそうです。そして、勉強熱心な猫井さんが、お菓子について知ろうとした際にぶち当たった壁――それぞれのお菓子の由来について書かれた本が、ほんの少ししかないこと。そして、お菓子ごとにその由来を辿ろうとしても、網羅的に整理された資料がないということ――こそが、本書の執筆動機となったようです。お菓子について深く知りたいけれど、製菓学校にいく余裕はない…そんな人たちのために、これを読めば日本のケーキ店で売られているお菓子全般について概略がわかる、興味を持ったお菓子について手軽に調べられるという本を目指されたというのですから、我々は有り難く、その恩恵にあずかろうではありませんか!

 この本のおすすめポイントは、中身だけではありません。書籍全体の装丁がシックでとても素敵なので、実際に手に取って読める物理版での購入を、断然推させていただきます! 棚や机の上にぱっと開いておくだけでも絵になるので、お部屋のアクセントとしても活躍することでしょう。お洒落なカフェの文庫にもうってつけですし、甘い物好きなあの人へのノンカロリーでシュガーレスなプレゼントに…なんて使い方も、楽しいかもしれません。

文=神田はるよ