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最果タヒ、最新作で17歳の少女の半径3メートルの等身大の世界を描く!『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

 今年は最果タヒさんにとってデビュー十周年の年にあたる。詩に始まり、その後小説の世界にも表現世界を広げたタヒさんの言葉は、さまざまなジャンルの雑誌やブログやSNSなどのメディアを通して流通している。詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』の映画化(5月公開予定)や現在オンデマンドで放送中のショートフィルム番組「さいはてれび」など、作品の映像化も積極的に行われている。
 最先端の日本語表現技術を駆使したタヒさんの言葉が、時代と響き合い、溶け合っている印象を受ける。最新小説『十代に共感する奴はみんな嘘つき』は、もともとはエッセイに付けられたタイトル。少女の戦闘的な日常をすくい取ってきたタヒさんならではの物語が、本作でも展開される。

最果タヒ

さいはて・たひ●1986年生まれ。2008年『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。15年『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。詩集として『空が分裂する』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』、小説として『星か獣になる季節』『渦森今日子は宇宙に期待しない。』『少女ABCDEFGHIJKLMN』など。
 

爆裂する少女のナラティヴ

「このタイトルのエッセイを書いたことを長らく忘れていたのですが、小説を書いていくうちに、このタイトルしかありえないと思い、使うことにしました。エッセイと小説の中身はまったく異なりますが、芯の部分は通じあっています。

 十代の少女を多く描く理由は、いちばん詩に近い存在だと思うからです。少女というのは、子供ほど無自覚ではないけれど、大人ほどには整理ができていない年代ではないでしょうか。パンで言うと、まだ焼いていないこね終りぐらいの、このパンはおいしいよとは言えない状態ですね(笑)」

 主人公の唐坂和葉は十七歳の高校二年生。陸上部に所属する同級生の沢に告白するが、彼の安易な返答に逆ギレし、告白を撤回する。ヘッドフォンを常に装着しクラスで孤立している女子の初岡を巻きこんで、三人の間に奇妙な関係が生じる。和葉は自分でつくったねじれた関係の中に自ら入りこんでいく。

「和葉は常に自分のことしか見ていません。でも、根拠のない自信をもっている子が私は好きです(笑)。昔の自分もそうでした。だから、そこをどうしても書いてしまうのだと思います。彼女が自分本位なのは、友達がいなかったりクラスでいじめられたりというような、切実な状況にないからです。この子は苦境に立ち向かう主人公のタイプではありません。普通の青春をやっている子が、普通に嫌な目に遭うことの発展版を書く方が自然に思えたんです」

 和葉は自分を取り巻く世界への違和感をひたすら語り続ける。爆裂する少女のナラティヴこそが、この作品の要であり最大の読み所でもある。極言すれば、ストーリーは主人公のエモーションの流れから生まれる副次的な産物といってもいい。

「そう、一人の女の子の意識を書こうと思いました。青春物語でもないし学園ものでもない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。和葉が生きた痕跡みたいなものが読者に伝わればOKみたいなところがありました。和葉が考えていることを定着させるにはどうすればいいか考え、『自分の思考回路をそのまま焼きつけるのが詩』というようなことを前に考えたことがあって、それをそのまま小説でやってみようと。

 現代詩花椿賞をいただいた時に、選考委員の小池昌代さんが隣の席に座られました。受賞の言葉を喋った後で、小池さんに小説の書き方について悩んでいる話をしました。あなたの受賞の言葉が面白かった。あんな感じで書けばいいのよ、とおっしゃって(笑)。じゃあ書いてみようと思って、その夜から書いたのがこの小説なんです」

 初岡がクラスでいじめに遭っていると思いこんだ和葉は、初岡が強くなるためには自分をいじめる必要があると提案する。沢を振ったことが周囲の女子たちの反発を誘ったこともあり、和葉はクラスでいじめの対象になってしまう。

「和葉には本当のいじめについての想像力が及ばない、人生を舐めている部分があるんですね。そういう彼女の浅はかな部分が書きたかったんです。沢には陸上があるし、初岡には音楽がある。二人とも自分の世界をもっています。彼らのような確たるものを和葉はもっていません。自分の小さな世界に閉じこもり、外の世界とアクセスできないんですね。その意味で、クラスで疎外されていたと思われていた初岡が、実は大学生たちとバンドを組んでいたエピソードは、私がもっとも書きたかった部分です」

 

ねじれを含んだ二組の奇妙な三人関係

 和葉が自宅に帰ると、大学七年生の兄と、兄の友人の三井と、兄の恋人で一度だけ三井と浮気をした医学部に在籍する保坂ほのかの三人がいた。ほのかを責めることなく彼女との結婚を報告する兄に、和葉は衝撃を受ける。ここでもう一組の収拾のつかない三人関係が提出される。

「兄と葉介とほのかの話は実は別の話で書いていて、そのまま放置していたんです。主人公とお兄ちゃんが結びついて合体しました。大学生の三人組にもねじれはありますが、彼らの関係は主人公たちとは違うんですね。純真なままではなく、いろんなものを背負い、生きていくことは大事なことで、それをやっているのが大学生三人組なんですね」

 主人公は兄に対して繰り返し「気持ち悪い」という感情を抱く。生理的な忌避感であると同時に、同一の価値観を共有していない人間への違和感の表明でもある。

「お兄ちゃんの感覚が理解できなかったのだと思います。和葉は、こういうことを言う人はこういう人間なんだと決めつけ、自分のロジックに当てはめてしまう。だから自分が理解できる範囲外のできごとや、未知の感情にぶつかると『気持ち悪い』のひと言で済ませてしまう。
『きもっ』って、都合のいい言葉だとずっと思っていました。たとえば誰かが『あの先生、きもっ』って言ったらそれで終りで、その先生がどんなにいい先生であっても、そこから先に感情は延びない。中高生の女の子の集団に会うとすごく怖いですよね。電車の中とかできゃっきゃっ騒いで、あいつきもいとか喋っている。でも集団と別れて一人になると、心もとなくなる。あれが真実だと思うんです。友達と一緒にいるから、きもく見えている部分があるんです。周囲がつくりだすその子の凶暴性みたいなものは、その子の本質ではないと思います」

 和葉の怒濤の語りがメインの物語は、後半部分で徐々にストーリーに回帰してくる。ほのかとの結婚を決意した兄の「本当の理由」を知った和葉に変化が訪れる。

「話はしてみないと通じないということですよね(笑)。和葉が威勢よく語るのは、結局頭の中で喋っているからなんです。頭の中では威勢がいいけれど、目の前で飛び降りようとしている人に対して威勢よくはできない。お兄ちゃんが家族でなかったら、面と向かって『気持ち悪い』とは言えない。それってただの甘えです。お兄ちゃんの結婚話で目覚めた部分では、やっと彼女の素が出たと思いました。つまり普通の子なんです。どれだけファンキーな子なんだろうと思いながら書いていましたが、書いていくうちにやっぱり普通の子なんだな、と思うようになりました。普通の子だからこんなに威勢がいいんですね」
 

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