怪人二十面相の正体が明らかに!?「東京バンドワゴン」の小路幸也が江戸川乱歩作品を大胆リメイク!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『少年探偵』(ポプラ社)

「東京バンドワゴン」シリーズで知られるミステリー作家・小路幸也の『少年探偵』(ポプラ社)が5月9日、文庫化された。同作は湊かなえ、有栖川有栖ら豪華メンバーが参加している江戸川乱歩オマージュ企画「みんなの少年探偵団」のうちの1作。乱歩の名作「少年探偵団」シリーズを下敷きに、名探偵と怪人の攻防をスピード感たっぷりに描いた長編ミステリーだ。

あらすじを紹介しよう。物語の冒頭、怪人二十面相という正体不明の犯罪者によって日本中がパニックに陥っている様子が描かれる。おそるべき知恵で宝石や現金を盗みだしたり、真夜中の銀座に金色の人食い熊を出現させたり、その犯罪は「まるで子供っぽい悪戯」のようであるだけに得体がしれない。

そんな様子を見かねて立ち上がったのは、ある出来事が原因で表舞台からふっつりと姿を消していた名探偵・明智小五郎だった。明智は旧友で新聞記者の真山とともに、二十面相の犯罪計画を阻止しようと行動を開始する。天才同士の知恵比べ、勝つのは明智か、二十面相か。

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ちょうどその頃、秘密を抱えた少年・芳雄は、列車に飛び込んで自殺しようとしていたところを謎の紳士に救われる。高級外車ベントレーで連れて行かれたのは、英国文化の香り漂う郊外の別荘だった。そこで芳雄は紳士から「探偵術」の手ほどきを受けることになる。怪人二十面相、明智小五郎、芳雄少年。見えない糸でつながった3人の天才が舞台上にそろったとき、運命の歯車が大きく回りはじめる。

ネットでも読むことができるインタビュー記事によれば、著者は小学2年で乱歩の『青銅の魔人』に出会い、ミステリー小説の面白さに開眼したという。「少年探偵団」シリーズはミステリー作家・小路幸也の原点。本作には著者の乱歩ファンぶりがはっきりと刻印されていて、読者を微笑ましい気分にさせる。たとえば極彩色の羽を広げたモンスター・蛾男が町中に現れるという展開は、「少年探偵団」のノリそのものだし、冒頭の「ついにその名は、人々が顔を合わせれば時候の挨拶の様に口にする様になってしまいました」という一文は、乱歩の『怪人二十面相』の書き出しのパロディだ。

その一方で、明智小五郎が貴族の血を引く美形のハーフ青年として描かれるなど、原典の設定を大胆にアレンジした点があるのも見逃せない。とくに大きな改変がなされているのは怪人二十面相の設定だ。ラストで明かされるその意外な正体は、乱歩ファンなら驚かされること必至。なるほど、あの素敵な大家族の物語『東京バンドワゴン』の著者が「少年探偵団」を書くとこうなるのか! 乱歩のおどろおどろしい『少年探偵団』とはまた違った魅力をもつ21世紀リメイク版。まったく新しい明智小五郎の冒険譚として、原典を知らない人でも楽しめるはずだ。

『少年探偵』のタイトルをもつ本作は、芳雄が少年探偵として生まれ変わる姿を描いた、いわば「小林少年ビギニング」でもある。探偵助手となった芳雄が、明智とともに今後どんな活躍をくり広げていくのか。小路版「少年探偵団」が今後2作、3作と書き継がれていくのか、大いに気になるところだ。

文=朝宮運河