放送作家が見た、エンターテイメント界の舞台裏

エンタメ

2017/5/27

『幸せな裏方』(新潮社)

 華やかに見えるエンターテイメント界だが、「主役」として人気者になれるのはほんの一握りだ。逆を言えば、数え切れないほどの「裏方」の存在が「主役」を引き立てているといっても過言ではない。

 しかし「裏方」の目から見る業界は、新鮮な驚きを観客や視聴者に与えてくれる。『幸せな裏方』(新潮社)は作家・放送作家としてキャリアを築いてきた藤井青銅さんが、創作エピソードの数々を綴ったエッセイ集である。あの大物芸能人の意外な素顔が見えたり、社会人として参考にしたい仕事の進め方を教わったりともりだくさんの内容だ。

 23歳にして「星新一ショートショート・コンテスト」に入選、以降は小説家と放送作家を兼業してきた藤井さんは、「流しの作家」というユニークな別名を持っている。局内で声がかかればどんな仕事でも引き受ける藤井さんの姿勢が、流しの歌手にそっくりだからだ。

 「藤井さん、時間ある?」この一言に、藤井さんは「あります」と返事せずにはいられない。結果、癖のある企画ばかりを背負い込んでしまうことになる。チェッカーズのラジオ番組のオープニングコントを本番3時間前に書かされたり、「二億の仕事」という胡散臭い肩書きでバカゲームのシナリオを担当したり、ウッチャンこと内村光良さんが演じたコントキャラ、「マモー」のテーマソングを作詞したり…

 いずれも楽しくやりがいのある仕事ではあったが、藤井さんのギャラは微々たるものである。『宇宙の法則』というコラム本を出版したときなど、便乗本の『マーフィーの法則』のほうがヒットしてしまい、逆に世間から「『マーフィーの法則』に便乗した」とあらぬ誤解を受けることになる。労力と成果が折り合っていないのが、哀しくもおかしい。

 一方で、長いキャリアの中で歴史的な瞬間に立ち会う幸運も何度か経験している。漫画の神様、手塚治虫の晩年の口癖は「丸い線が上手く描けなくなりまして」だったが、今でも資料として流される手塚治虫自身の肉声を、藤井さんは生で聴いていた。『手塚治虫のオールナイトニッポンスペシャル』収録中のことである。若手時代の長渕剛と世良公則のラジオ番組には作家として入り、二人が流行のアイドルソングを即興で演奏する姿を目撃していた。ラジオスター、伊集院光の新人時代にはアドバイスをレポートにして渡し続け、後年になってオードリー春日俊彰から「そのレポート、伊集院さんは今も持ってる」と聞かされることになる。

 特に、「幸せな結末」などのヒット曲で知られる故・大瀧詠一さんとのエピソードはいずれも味わい深い。締め切りにルーズで知られる大瀧さんから原稿をとれるほど、藤井さんは大瀧さんから可愛がられていたという。大瀧さんは自らを「ジャーナリストタイプ」、藤井さんを「アーチストタイプ」だと呼んでいた。藤井さんは数々のヒット曲を生み出した大瀧さんが「ジャーナリスト」だとは信じられず、逆ではないかと疑っていたが最近になって真意に気づく。世相に触発されて創作物を生み出す大瀧さんはジャーナリスト、自分の好きなことだけを考えて仕事を続けてきた自分はアーチストだったのだと納得できるようになるのだ。

 実際、藤井さんのキャリアは自由気ままだ。世間の流行はあまり気にせず、面白いと思ったことを形にしていく。完成度の高いものよりも、あえて整えないことを意識し、人間味のある作品を残そうとする。結果、人に手柄をとられても根に持つことがない。あくまでも面白いことに携われた経験を大切にしているのである。

 そんな藤井さんが「裏方」を自称するとき、そこには自虐や謙遜の響きはない。エンターテイメント界のはみ出し者として、それでも業界を担っているという自負がこもっているからだ。

文=石塚就一