【今週の大人センテンス】苦しんでいる子供たちのために図書館ができること

ライフスタイル

2017/6/12


 巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

第61回 勇気あるツイートが起こした波紋

「学校に行きづらい子は、本をきっかけに世界観を変えてもらったり、自殺を考えているような子が、違う世界もあるということに気付いてくれればいい」by鎌倉市中央図書館館長・菊池隆

【センテンスの生い立ち】
2015年8月26日、鎌倉市中央図書館がツイッターに「もうすぐ二学期、学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館にいらっしゃい」と投稿。たくさんの称賛の声からさまざまな批判の声まで、大きな反響を呼んだ。2年近くたった今、同図書館の菊池隆館長がwebニュース「ハフポスト日本版」のインタビューに答えて、ツイートに込めた思いやその後の反響、苦しんでいる子供たちに図書館が何ができるのか、などを語った。

【3つの大人ポイント】
・子供のために図書館は何ができるかを考えている
・お門違いの批判に屈せず、力強く突っぱねている
・苦しむ大人にとっても大切なヒントを示している

2015年8月26日の朝、多くの学校でもうすぐ夏休みが終わろうとしている時期に、鎌倉市中央図書館がツイッターに投稿したこの一文が、大きな話題となりました。「ああ、あれね」と印象に残っている方も多いでしょう。

もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。

 この勇気あるツイートは、たくさんの共感や感動を巻き起こしたのと同時に、勇気ある行為の常として、さまざまな批判も受けてしまいます。6月2日、ニュースサイト「ハフポスト日本版」に、同図書館の菊池隆館長にインタビューした記事が掲載されました。ツイートの反響や図書館の役割などについて語っている館長の言葉は、苦しんでいる子供や大人、そして苦しんでいる自分自身にどう向き合えばいいのかを考えさせてくれます。

「自殺を考えるほど悩んだら、学校休んでいらっしゃい」ツイートした鎌倉市図書館が、今伝えたいこと(文:濱田理央)

 「ハフポスト日本版」は、多様な価値観を紹介する記事を積極的に配信しています。先月下旬からは、自立した個人の生き方を特集する企画『#だからひとりが好き』がスタート。昨今は「みんなと一緒」や「みんなとつながる」ことが良いとされていますが、「みんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝え」ていこうという趣旨で、このインタビュー記事も同企画のひとつとしてアップされました。

 鎌倉市中央図書館のツイートのきっかけは、内閣府が公表した「自殺対策白書」に、過去40年における18歳以下の自殺者は、9月1日が年間でもっとも多く、夏休み明け前後に顕著に増える傾向がみられるというデータがあったこと。これを知った中央図書館のツイッター担当の女性職員が、学校が始まるのをつらいと感じている子供に向けたツイートを提案し、菊池館長も同意しました。

 このツイートで救われた子供は、きっとたくさんいたことでしょう。ただ、インタビューによると、「(図書館は自殺対策の専門機関ではないので)何もできないにもかかわらずツイートを出したのは無責任だ」といった批判が来たり、教育委員会が「死ぬというとても強い言葉なので、そういう言葉に連鎖・反応した子供に、影響が出かねない」と問題視して、削除が検討されたりもしたとか。

 どちらも、絵に描いたようなお門違いの反応です。ギリギリの状態にある子供たちに「逃げ場所に図書館も思い出してね」と呼びかけているのに、踏み込んだ対処を求めるのはイチャモン以外の何ものでもありません。図書館に逃げ込んだら訳知り顔の大人が待ちかまえていて「相談に乗るよ」と声をかけて来るなんて、想像するだに身の毛もよだつ光景と言えるでしょう。菊池館長も、図書館の役割は「あくまでも見守り」と言います。

 教育委員会も「図書館ごときが余計なことを」という気持ちがあったのか、事なかれ主義が骨身に沁み込んでいるのか……。どちらにせよ、子供のことを最優先で考えてはいないのは確かです。経緯や背景を理解してもらって、結局は削除しなくてもいいということになりましたが、その陰には菊池館長の並々ならぬ奮闘があったに違いありません。もし教育委員会の圧力でツイートが削除されて、そのことをギリギリの状態にある子供が知ったら、またひとつ貴重な逃げ場を奪われた気持ちになり、大人への失望感をさらに深めたでしょう。

 学校で孤立した子供たちにとって、図書館はどんな場所で何を与えることができるのかという問いに、菊池館長はこう答えています。「(前略)本をきっかけに、いろんな世界、考えがあるというのを気付いて欲しい。本の中の世界観は、今までの自分の世界観を変えるきっかけになる。学校に行きづらい子は、本をきっかけに世界観を変えてもらったり、自殺を考えているような子が、違う世界もあるということに気付いてくれればいい」。

 2年前のツイートや今回のインタビューで救われた気持ちになるのは、子供だけではないはず。つらい状態にあればあるほど、「逃げ場なんてない」「逃げてはいけない」と思い込んでしまうし、「(自分は、人生は、大人は、仕事は……)こうじゃなきゃいけない」という固定概念から逃れられなくなります。落ち着いて考えれば当たり前ですが、どんなことからでも逃げたところでどうってことないし、世の中に「こうじゃなきゃいけない」ことなんてありません。その気になって探せば、今とは違う世界や違う価値観に必ず出合えるでしょう。

 こういうことを言うと、例によって「簡単に逃げちゃダメだ!」「世の中には揺るぎない真実がある!」と眉を吊り上げて怒る人が現われそうです。「そういうことを言ってるんじゃないんです」と説明しても、理解する気持ちや発想はないんでしょうね。もしかしたら誰よりも思い込みに縛られていて、誰よりも違う世界や価値観に出合ったほうがいいのは、その手の人たちかもしれません。お気の毒ですね……って、大きなお世話ですね。

 そうは言っても、子供にせよ大人にせよ、思い込みの力は強大です。洋服を着替えたり、電車を乗り換えたりするような調子にはいきません。まずは、今の世界や価値観を疑い、違う洋服や路線もあることを再認識しましょう。そして、自分を縛っているものを直視して、全力でせせら笑いましょう。追いつめられている自覚はない人も、同じことをしてみると、たぶん今よりも楽に生きられます。

【今週の大人の教訓】
本気で苦しいことをやり続けるほど、人生は長くはない

文=citrus コラムニスト 石原壮一郎