「○○な本ってあるかしら?」ムチャぶりに応えてくれる“妄想書店”が大ヒット! 文庫犬にカバー変更器…? ヨシタケシンスケの妄想力がすごい!

文芸・カルチャー

2017/6/21

『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ/ポプラ社)

いつでもどこでも、居ながらにして本を手に入れることのできる世になって久しいけれど、ついつい書店に足が向いてしまうのはなぜだろう。それはたぶん、思いがけない一冊との出会いを求める宝探しにも似た気持ちが心の底のほうにあるからなのかもしれない。

“本の本、あります”という看板が掲げられた「あるかしら書店」を舞台にした一冊、ヨシタケシンスケさんの新刊『あるかしら書店』(ポプラ社)は、そんな想いを持つ人々の願いや妄想を、“わぁー!”という形にして叶えてくれる本。

書棚を模した“もくじ”からして、もうわくわく。“ちょっとめずらしい本”、“本にまつわる名所”、“本のまつわる道具”、“本にまつわる仕事”“図書館・書店について”など、それぞれのカテゴリーには、本にまつわる専門店ならではの、ちょっと不思議で、可笑しな本たちがずらりと並んでいる。

人には見せる用の本棚と見せられない本棚があるはずで(笑)。本の面白さって、そういうところにもあると思うんです。そして、そんな“あるある”“わかるわかる”を共有したくて。普段、意識にはのぼらないけど、実はこういうこと、ついついやってるよね?ということを拾い集めてみました『ダ・ヴィンチ』7月号より

一冊、一冊を見ていくと……見開き2ページのなかに現れるのは、たとえば明るい満月の夜、月明りの下でだけ読める『月光本』だったり、動く本棚を作って街をねり歩く“古本道中”や一冊のアイドル写真集を町中の男子中学生が奪い合う“春追い”などの『本のお祭り』、本にまつわる名所『水中図書館』、本棚を見られるのが恥ずかしい人のための『カバー変更器』だったり。思わず笑みがこぼれる発想と、ウィットの効いた仕掛けがあちこちに隠れているシンプルで心地よいイラスト。その真ん中にあるのが、本そのものと、書店員さんをはじめとする本にまつわる人々やものへの、あたたかな眼差しと深いリスペクトだ。

これはいける、という判断基準は、2ページに収まりきらない話になるかどうかということでした。前と後が気になったり、“水中図書館、どこにあるんだろ、作った人はどんな人だったのかな”と、つい想像してしまう隙間が空いているものを。各々が一冊の本になるくらいの設定で考えていました『ダ・ヴィンチ』7月号より

『りんごかもしれない』『りゆうがあります』『このあとどうしちゃおう』など、これまで子供に向けた絵本を描いてきたヨシタケさんだが、そのどれもが、大人の心にもじんわりと効いてきた。いやむしろ、子供時代をはじめ、人生のいろんな時期、いろんなことを経験してきた大人の心だからこそ、描かれる“面白い”の向こう側に響くものをキャッチすることができるのかもしれない。

ヨシタケさんの題材はいつも日常にある、当たり前すぎて考えもしなかったこと。本作のなかにも普段は気にも留めていない、でも言われてみれば、“そうそう!”という、本好きならではの“わかるわかる”が詰まっている。それはどこか、今いる時代や場所を越え、本を愛する誰かとつながっているような豊かな気持ちも連れて来てくれる。

「イラストエッセイなのか、マンガなのか、それともちょっと違う、なんとも言えない落しどころのものになりました」と、ご本人が言うほど、ジャンルの枠を越えた一冊は、くすくす笑いながら、“本ってやっぱりいいよねー”とうなずきながら読んでいくうちに、あるひとつの想いにも突き当たっていく。

“なぜ自分は本を読むことが好きなのか”。そんな当たり前すぎて考えもしなかったこと、そして自分のなかにあるその答えが、この本からはやさしく立ちあがってくる。

取材・文=河村道子

 

「BOOK OF THE YEAR 2016」(『ダ・ヴィンチ』1月号)に書き下ろされた「大ヒットしてほしかった本」も収録!

「売れなくていいやと思って作られた本なんてないわけで。一冊、一冊に情念と皮算用と欲が詰まっている(笑)。『ダ・ヴィンチ』さんだからこういうことが言えた、できたというのが自分のなかですごくうれしい一編。言いたいことを言いたい場所で言うみたいな感じが、描いていて、とても気持ちよかったです」(ヨシタケさん)

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