ニノが歌えない!? 幸せいっぱいのはずが、バンド存続の危機に……ますます恋心が交錯する『覆面系ノイズ』最新13巻!

マンガ

公開日:2017/6/22

『覆面系ノイズ』(福山リョウコ/白泉社)

 切ない恋心が交錯する、累計160万部突破のバンド青春マンガ『覆面系ノイズ』(福山リョウコ/白泉社)。ようやく決着がついたかに見えた恋の三角関係、どこかあぶなげな主人公・ニノの様子に、一波乱どころかまだまだ波風がたちそうだ、と読者を煽った12巻のラスト。6月20日に発売された13巻は、期待を超える感情の渦がみちみちておりました。

 突然いなくなってしまった初恋の少年・モモに見つけてもらうため。そのためだけに歌い続けてきた少女・ニノ。ニノの声に魅せられ、歌をつくり続けてきた少年・ユズ。長年のすれ違いを経て、ようやく想いを通じあわせたモモとニノ。そりゃあユズの想いを知ったからには冷静ではいられないかもしれないけれど、ユズはニノにとって「恋よりもっと大事かもしれない」相手。それぞれをつなぐ絆は簡単にほどけるものではなく、あとはニノ&ユズが所属する「in No hurry to shout(通称・イノハリ)」と、モモが立ち上げたライバルバンド「SILENT BLACK KITTY(通称・黒猫)」の音楽バトルを楽しむか――と思いきや。ここへきて大問題が発生。

 ニノが、歌えない。
もちろん声が出ないわけじゃない。でもこれまでのように、聴く者の胸がはりさけそうになるくらいの切実さを放つことができない。要するに、本調子ではないのだ。その原因が何か、ユズだけは知っていた。ニノがモモを手に入れてしまったからだ。

advertisement

 芸術には、ルサンチマンが必要だ。足りない。手に入らない。悔しい。苦しい。思いどおりにならない現実を、ねじふせるほどの力で、芸術家は創造物を世に送り出していく。ではそんな彼らが、幸せになって、満たされてしまったら? もう二度と、すばらしい芸術を生み出すことはできないのだろうか?

 ニノはモモだけのために生きてきた。歌うのはすべてモモのためだった。そのモモと両想いになってしまったいま、ニノには、彼女の歌を特別にしていた“何か”が欠けてしまったのである。

 なんのために歌うのか。なんのために走り続けるのか。ニノが「次」を見つけない限り、彼女は欠けた何かを取り戻せない。ただ歌うのが好きというだけではだめなのだ。だってニノは、ただ歌がうまい人になりたいわけではないのだから。一度、自分の奥底から絞り出せる可能性を知ってしまい、辿り着ける場所が見えてしまったら、もうそこ以外に価値はない。辿りつけないなら歌を手放してしまうしかない。

 その葛藤に、モモもユズも気づいている。どちらも今の彼女を肯定したうえで、次のステージへ導こうと――一緒に辿りつこうとしてくれている。

 だが。ニノの心は、単純には溶けてくれない。
本巻で、答えは出ない。どうする、ニノ! と煽るだけ煽って、ものすごくいいところで終わってしまう。あと1話! 次を早く! と焦れたところで飛び込んでくるのは読み切り短編「墜落ゼリー」。こちらも非常に萌えるいい話なのだが、いかんせん続きを待つのが耐えがたい! いやほんと、元天才カメラマン(女好き)と女子高生(ツンデレ)の恋バナなんて、巻末のご褒美でしかないのだけれど。

 ここから先、ニノの歌声を呼び戻すのは、おそらく彼女に勝るとも劣らない――むしろ誰よりも深くて切なすぎる「彼」の渇望だろう。すべてをニノに捧げて生きてきた彼の想いがきっと、彼女を救うことになる。はてしない絶望を乗り越えて「今」に辿りついた彼がどんな景色を見せてくれるのか。本巻からこぼれ出る想いをリフレインしながら、待ちわびたい。

 文=立花もも