郷土愛と食欲がむき出しに? ご当地グルメから見る地域のライバル関係

暮らし

公開日:2017/6/23

『にっぽん全国犬猿バトル地図』(謎解きゼミナール:編/河出書房新社)

 小生はローカル情報が大好きで、その地域ならではのニッチなネタを求めてケーブルテレビやローカルテレビ局をよく見ている。現在、横浜在住のため神奈川県下が主となるが、生まれ故郷である三重県や幼少時より長年住んだ愛知県も気になり、ネットで見つけるとつい読み入ってしまう。

 それらは基本的にほのぼのとした話題が多く、リラックスした気分で見ていられるのだが、この『にっぽん全国犬猿バトル地図』(謎解きゼミナール:編/河出書房新社)ではそうもいっていられない。なぜなら本書は地域同士のライバル関係を集めているからだ。

 代表格は栃木県宇都宮市と静岡県浜松市の「餃子の世帯あたりの購入額日本一」争いだろうか。総務省の家計調査によると1996年から宇都宮が「餃子の世帯当たり購入額」で日本一だったのだが、2011年には浜松が逆転。2013年に宇都宮が返り咲くも、以降は2016年まで浜松のトップが続いている。

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 そもそも、なぜ宇都宮が餃子の町となったのだろうか。本書によると、話は太平洋戦争直後にさかのぼる。宇都宮に司令部を置き満州に駐屯していた陸軍十四師団が、中国で餃子の味を覚えて帰国し、地元のニラと白菜、小麦粉で作るとたちまち評判になったという。一方、浜松では昔から餃子が食べられていたそうだ。「浜松餃子学会」によると、大正時代からの歴史を誇るらしい。キャベツ、豚肉、玉ねぎを使い円形に並べて焼き、真ん中にもやしを付け合わせるのが常道とされる。

 対立が始まったのは2007年。その年に浜松市は政令指定都市となったのをきっかけに、「独自調査での餃子消費量日本一」を宣言して宇都宮に宣戦布告。2010年には各地のご当地餃子を集めた「餃子サミット」及び、市内の餃子店を中心にした「浜松餃子まつり」を開催するという大胆な手段に打って出た。さらには宇都宮を招こうとして断られたそうだが、勢いは止まらずついに日本一へと輝いたのである。

 県外から見ればどちらも毎年、餃子イベントで盛り上がり楽しそうな印象であるが、当地からすれば地域経済の活性化に繋がるために切実な問題だろう。とはいえ、こうしてしのぎを削って双方の餃子がより美味しくなるのなら、やっぱり対立も良いかなとも思ってしまう。しかし、ただ無責任に煽るだけでは気が引けるので、せめてスーパーで売っているそれぞれのブランド餃子を食べて応援したい。

 本書では他にもライバル同士の地域が数多く紹介されているが、やはり個人的には愛知と三重の話題が気になる。エビ天の入ったおにぎり「天むす」をご存じだろうか。90年代後半に名古屋名物として全国的に知れ渡ったが、実は三重県津市にある天ぷら屋「千寿」のまかない飯が発祥で、名古屋に暖簾分けされた「めいふつ天むす千寿」から人気が広がったのだ。なお、名物から濁点を取って「めいふつ」と称している。

 もっとも、天むすが三重県生まれなのは案外と耳にする。しかし、本書でさらに驚かされるのは、かの「味噌カツ」も三重県生まれだということだ。津市の洋食屋「カインドコックの家カトレア」が元祖といわれる。この他に、岐阜県美濃地方で食べられていたとの説も。ただ、小生自身は三重で味噌カツを食べたことがなく、イマイチ実感がわかないのが正直なところだ。

 当の名古屋市はどのような見解を持っているのか。「なごやめし博覧会」実行委員会によると「名古屋人は名古屋めしが名古屋発祥の料理だと限定したことは一度もない」ということらしい。小生も「なごやめし普及促進協議会」のサイトで「『なごやめし』は名古屋市の料理に限って使われる言葉ではない。愛知、さらに東海地域までおよぶ広域のご当地料理を指す」との文言を見つけたが、裏を返せば「東海地域は全て名古屋文化である」と言ってるようなものかと思え、余計に心配になってきた次第である。どの県も仲良く、美味を競ってほしいものだが……。

文=犬山しんのすけ