暑い日には部屋で読書を……村上春樹らの言葉を道標に海外文学への道を踏み出そう 柴田元幸編『MONKEY vol.12』

文芸・カルチャー

2017/7/14

『MONKEY vol.12』(柴田元幸:編/Switch Publishing)

翻訳家・柴田元幸が責任編集を務める文芸誌『MONKEY vol.12』(柴田元幸:編/Switch Publishing)は本号で12号目。「翻訳は嫌い?」と題した特集を中心に、村上春樹・川上弘美など小説家だけでなく、歌手の小沢健二、分子生物学者の福岡伸一など多様なエッセイ・対談が掲載されている、知的好奇心をくすぐる一冊です。

「海外文学」という単語を聞くと拒否反応が出てしまう方もいるかもしれません。私自身も、ロシア小説の名作を手にとってみたものの、登場人物の名前が覚えにくかったり、長かったりして物語以前のポイントで挫折してしまったことがあります。そうした時は図書館に返却する前、本に申し訳なくて謝罪の代わりにページをパラパラと何度か通しでめくってから返却したものです(本がありがたがっているかどうかは定かではありませんが…)。

しかし、外に出るのが億劫な猛暑の日に、一番手軽に遥か彼方まで心をワープできる方法のひとつが海外文学を読むことであると、本書を読めば感じていただけると思います。

もっとも、外国文化が一部の教養人のものだった時代には、大衆に向けて外国語のものを日本語に直すという翻訳作業はかならずしも必要ありませんでした。

編者・柴田元幸は、西洋文化が日本に流入する明治以前の翻訳作業について冒頭でこのように述べていますが、こうした事実を知ると、書店に行けばまだ見ぬ読者のために翻訳された本が当たり前のようにたくさん置いてあるという状況が、宝の山のように素晴らしいものとして感じられてこないでしょうか。

翻訳というキーワードは、普段翻訳にゆかりがないと思われる方でも、意外と身近なところに接点があります。それを気付かせてくれる、英語と日本語の音に関するエッセイ「日本語と英語のあいだで」の著者は、歌手・小沢健二です。作品の中で、conference(「会議」の意)という英単語をどのようにカタカナ表記するかが、時代によって少しずつ変化してきた話題が出てきます。

もしかしたら「カンファランス」は、イケてる感を出したい人たちだけが使っているのかもしれないが、なるほど「コンファレンス→カンファレンス→カンファランス」と、にじり寄るように、音の似顔絵は似てきている気はする。

「音の似顔絵」という小沢健二らしいユニークな表現ですが、日本語の表記を英語の発音に似せれば事がうまく運ぶというわけではないと、この後話がさらに展開していきます。確かに、「コンファレンス」であろうと「カンファレンス」であろうと「カンファランス」であろうと、日本語の「会議」という意味が到達点であることは変わりません。「レギンス」「アメリカ」「ウォーター」などという単語にまで展開される、英語と日本語の音に関する愉快で真剣な議論の続きは、ご購入後にぜひお楽しみください。

特集のタイトル「翻訳は嫌い?」とは逆に、外来語や翻訳された文章が重層的に見えてきて、言葉そのものの奥深さへの気付きや、海外文学への興味を持たせてくれます。

文=神保慶政