新曲『風と共に』は40年ぶりのNHKみんなのうた――エレファントカシマシ宮本浩次インタビュー【後編】

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更新日:2018/10/12


 7月26日(水)発売の新曲『風と共に』は、前編で宮本が語った最近のコンサートの情景とシンクロするような優しさと説得力に満ちた名曲だ。

 「自慢の歌です。歌詞の中の言葉は、今までの曲と似てるかもしれないけど、本質は新しい。自由を求めるということを……自由なんてあるのかってことも含めて、まっすぐ歌ってると思います。NHKの方からは、『風に吹かれて』とか『今宵の月のように』みたいに、エレファントカシマシの2面性があるとしたら(2枚組ベスト盤にそれぞれ名付けた)“Roll&Spirit”じゃなくて“Mellow&Shout”のほう、メロディーの美しい曲にしてくださいとだけ言われました。激しいロックの曲じゃなくて、アコースティックな感じのある曲に、と。僕もそれはすごくいいなと思って、張り切って作りました。『みんなのうた』だからといって、子ども向けと思って作ってはいない。自由というもの、夢や希望を歌った歌だけど、夢や希望を追い求めることに子どもも大人もない。というか、あるっちゃあるけどないっちゃないですから。悲しみを乗り越えてる回数は、大人のほうが多いかもしれないけど、子どもは子どもなりに悲しみを乗り越えてるわけだし。まっすぐ歌えばそれでいい、と思って作りました」

 実は宮本は小学生時代に「東京放送児童合唱団」(現NHK東京児童合唱団)に所属しており、10歳の時に歌ったNHKみんなのうた「はじめての僕デス」が10万枚のヒットを記録した。

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 「40年ぶりに『みんなのうた』で歌える喜びは大きかった。あの『はじめての僕デス』からもう40年か……と。当時、小学校5年生の半ばで、恥ずかしくて合唱団をやめちゃったんです。もちろん歌は大好きだったんだけど、だからこそ3年も――アルバイトだって3日で辞めちゃうような男が3年間も歌い続けたってどれだけ歌が好きだったかってことなんだけど――でも小学校の高学年になって、歌を歌ってることがみんなに知れて恥ずかしくて、もうヤダ!って言ってやめちゃった。そうしたら母親が、『あんたそんなこと言ってるけど、もっともっと大人になった時に、絶対にいいことがあると私は思う。NHKの合唱団に行っててよかったって、絶対に思うと思うわ。いつか私に感謝する時が来るわよ』って言ったんです。おふくろはもういないけど、生きてたら嬉しいでしょうね。母親ってそういうもんなんですね。『この子は歌が上手いから』って合唱団に連れていって、そしたら40年ぶりにこういうことになって。だから喜びがすごく大きかった。絶対に最高の歌を作る!と思って、歌だけじゃなくてアコースティックギターも、エレキギターも、全部自分で弾きました」

 

清新な感じで、曲にぴったり。本当にこの絵は嬉しかった

 『風と共に』は、『つみきのいえ』などで知られる国際的なアニメーション作家・加藤久仁生のアニメとともに『みんなのうた』6月~7月の新曲として放送中だ。

 「アニメは、出来上がってすぐに加藤さん本人に見せてもらいました。素晴らしいと思った。びっくりしました。すごく曲と合ってるし、ちゃんと『毒』がある。美しいだけじゃなくて、生きているということの“背面”が織り込まれている。曲を“理解”というより“愛して”作られているアニメーションだと思って、すごく嬉しかったです。僕は浮世絵は好きだけど、アニメーションの世界は全く知らない。映像の世界もさっぱり、門外漢ですが、彼がエレファントカシマシとこの音楽を、本当に理解しようとして、しかも理解して、愛して、自分なりに答えをちゃんと絵で出してくれたと思った。“コールアンドレスポンス”ができた喜びがありました」

 この加藤の作品に感銘を受けたことから、シングルのジャケットのイラストレーションも宮本自ら加藤に依頼することとなった。

 「今までイラストのジャケットってなかったし、バンドの4人の写真だと『あ、いつものエレカシね』ってなって、この曲の表現している風の軽やかさとかは表せないと思って。それに今年は30周年で、いろんな雑誌で4人で最高の写真をたくさん撮ってもらったんです。ベスト盤のジャケットも4人の写真だし、だから今回は4人の顔じゃなくていいんじゃないかと。そう考えていた時に見せてもらった加藤さんのアニメが、とっても新味があって、透明感があってすてきだったから、もう彼にストレートに描いてもらうのがベストだと思って僕からお願いしました。快諾してくれて、ずいぶんたくさん、何十枚も描いてきてくれた。男の子と女の子の絵にしてほしいとか、風と空を感じる絵がいいとか、後ろ姿の絵がいいとかいろいろ話して、やっぱり表情が見えたほうがいいという話になって、この絵に決まりました。中に載せるイラストでは、バンドの仲間4人を若い子どもの頃に戻してほしいっていうお願いもして……。しかも加藤さんは偶然にも、エレファントカシマシを前からとても好きだったんです。6月の神奈川県民ホールにも来てくれたの。本当にこのジャケットの絵は嬉しかった。清新な感じで、曲にぴったりだと思う」


 

みんな一生懸命、聞きたくて聞いてるんだと思う

 30周年を機に今春以降、テレビにラジオに雑誌に新聞、出ない日はないほどのプロモーションに挑んだ宮本。行く先々で「30年続けられた秘訣は?」「メンバーと喧嘩しないんですか?」「ベスト盤の30曲はどうやって選んだ?」。同じ質問を何十回聞かれても、その都度まるで初めて聞かれたかのように一生懸命答える姿を目にした人も多いだろう。

 「そうでしたっけ? そんなに真面目に答えてました? まあ、『またこの質問か』と思ってる時もあるんじゃないかなと思うけど……でもね、同じ質問でも、みんな一生懸命、聞きたくて聞いてるんだと思う。本当に、僕の、エレファントカシマシの話を聞きたくて来てるんだって思う。だから毎回違うんです。なぜなら、ライブもそうじゃない? 同じ曲だって、毎回更新してると僕は思ってるし、いいも悪いも含めて、毎回全然違う。会場の埋まり方、お客さんや自分たちのいろんな思い……そういうものを含めて、同じセットリストでも全然違う」

 確かに、ファンはだからこそコンサートに繰り返し行く。

 「例えば『ファイティングマン』(コンサートで恒例の、88年のデビューアルバムの1曲目)だって、みんなの捉え方によって、30年前と全く違う新鮮な驚きを今僕らは感じている。だから……みんなすごくかわいい。俺おじさんになったのかなぁ。みんながかわいくてしょうがないんだよね。僕に質問をしてくれる人も、お客さんも。もちろん僕より年上の人もいっぱいいるから『かわいい』なんて言ったら失礼かもしれないけど。コンサートでも、そりゃ温度の差、ものすごく待ち焦がれている人もいれば、通りすがりでちょっと行ってみようかなって人もいるかもしれないけど、でも、みんな聞きたくて来てるんだってことが最近少しわかってきた。今は、少なくともエレファントカシマシに会いに来てる人たちは、絶対に興味を持って来てくれてるんだろうなって――ちょっと考え方として平和すぎるかもしれないけど――そういう風に思います。だからこそ実は、MCで唯一気にしているのはそこなんです。僕らにとっては何度も歌った歌でも、初めて聞く人もいるし、興味を持ってエレファントカシマシのコンサートに初めて来てくれてる人もいるのに、『今日も俺たち、やって来ました!』って、つい『も』って言っちゃったりするんです。それはいつも申し訳ないと思うなぁ。『今日は』って言いなおすんですけど。『今日もドーンと行くぜ!』じゃなくて、『今日はドーンと行くぜ!』って言わないと。それは、すごく思います」

取材・文=滝本志野 写真=下林彩子

30周年記念47都道府県ツアーそして新曲に込める思い――エレファントカシマシ宮本浩次インタビュー【前編】


みやもと・ひろじ
●1966年、東京都生まれ。エレファントカシマシは中学時代の同級生だった宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、冨永義之(D)に、冨永の高校時代の同級生・高緑成治(B)が加わり、’88年デビュー。2017年夏は全国ツアーの合間に、7月28日(金)Reborn-Art Festival 2017 × ap bank fes 、8月5日(土)オハラ☆ブレイク’17夏、8月6日(日)ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017、8月19日(土)・20日(日)SUMMER SONIC 2017、8月25日(金)SWEET LOVE SHOWER 2017などの夏フェスに出演。9月23日(土・祝)愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホールから47都道府県ツアーが再開、後半戦は12月9日(土)富山・オーバード・ホールまで計20公演。http://www.elephantkashimashi.com/