ナイチンゲールは武闘派看護婦? アインシュタインは浮気性? 偉人たちのちょっと残念な裏話

ライフスタイル

2017/8/23

『偉大なる残念な人たち』(八島みず紀/パルコ)

 フィクションにおいて魅力的な主人公を創作するには、優れた能力だけでなく駄目な性癖を設定すると良いとされる。この場合の性癖とは別にエッチな趣味のことではなく、「人間性の癖」とでもいうべきものだ。それがあることで、物語の受け手は主人公への共感や親近感を覚えるという次第。

 そしてそれは、歴史上の偉人にも云えるかもしれない。子供の頃に読んだ伝記物で偉人の成した業績に感動したはずが、大人になるにつれて自分は何者にもなれないことに劣等感をいだき、単なる歴史上の記録と認識する程度にしてしまった残念な人は私だけではないと思う。

 しかし、それこそ偉人たちは完全な創作とは違い実際に生きていた人間なのだから、もっと身近に感じられるはず。『偉大なる残念な人たち』(八島みず紀/パルコ)は、偉人1人につき1~2ページの漫画と文章という構成のため、どのページからでも気軽に読める。それぞれの偉人に魅力を感じたら、改めて関連書籍を読んでみるというのも良いだろう。

 私が本書で、特に興味を持ったのは女性の偉人。私が女好きだからというわけではない。いや好きなのは言い訳できないが、どうも高嶺の花というか、実存していながら実体を伴わないアイドルのように思えてしまう。

 ところが『源氏物語』の作者として知られる紫式部は、『枕草子』を代表作に持つ清少納言がよほど嫌いだったらしく、彼女について「利口ぶって漢字を書いていたが、間違いが多い」とか「こういう人がよい最期を迎えられるはずがない」などと『紫式部日記』に書き残しているのだとか。『源氏物語』が、専門家からは文章の美しさや登場人物の心理描写などについて高く評価されているのに比べて、随分と直情的で口が悪いのがなんとも人間臭い。

 現代看護の基礎を築いたフローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争に看護婦として従軍したおりに兵士たちから「クリミアの天使」と呼ばれ、これが今でも「白衣の天使」のイメージの元になっている。ただし実際に看護婦として活躍したのは2年ほどで、真の業績は戦死者・傷病者のデータの分析方法を考案し、看護学校の設立に尽力して当時は医師の手伝い程度にしか認識されていなかった看護婦の社会的地位を高めたことだそう。そんな彼女の残念な点は、武闘派(?)看護婦だったこと。備蓄の薬を出し惜しみする軍医に対して、斧で木箱をたたき割り中の薬を奪い取ったという。もちろんそれは、傷ついた兵士のためなわけだが。

 一方、本書での男性の偉人には女性関係での残念な人が目立った。ノーベル賞で有名なアルフレッド・ベルンハルド・ノーベルは、20歳以上も年下のゾフィー・フェスと長年にわたって文通を続けていたものの、ゾフィーは他の男性の子を身ごもり破局。それだけなら失恋ですむところが、彼女はノーベルの死後に数百通ものラブレターをノーベル財団に高額で売りつけ、あろうことか財団はこのラブレターを公開してしまった。フラれたうえに、ラブレターまで晒されるなんて不憫である。

 そのノーベル賞つながりで、現代物理学の父であるアルベルト・アインシュタインは恋愛体質だったらしく、妻のミレヴァを差しおいて次から次へと他の女性に手を出し、従姉妹のエルザと浮気をした挙句、とうとう怒ったミレヴァが「ノーベル賞をとったら、その賞金は全部私が頂く!」と離婚の条件を出すと、本当に受賞してしまった。いや、狙ってとれる賞ではないはずだけれど、さすが偉人になる人は凡人とは違うということか。

 自分は偉人になどなれないかもしれないが、何もせずに他人を羨んで自分の人生を諦めるような、残念な人にだけはならないようにしたいものだ。とりあえず自分が有名にでもなったら、パソコンやスマホのデータだけは死ぬ前に消去しておこうと思う。

文=清水銀嶺