1個の受精卵がヒトに成長するまで――驚きの「生命進化」の歴史とは? BBCで人気の美人人類学者が解き明かす!

科学

2017/12/12

『生命進化の偉大なる奇跡』(アリス・ロバーツ:著、斉藤隆央:訳/学研プラス)

 この秋からNHKスペシャルで始まった大型シリーズ「人体」のように、最先端の研究が明らかにする生命科学の世界には不思議な魅力がある。「生命の神秘」としかいいようのないメカニズムの数々。それらが自分の身体に「あらかじめ内包されている」という事実を知ると、かなり驚き興奮するものだ。

 最近、じわじわ人気を集めているという『生命進化の偉大なる奇跡』(アリス・ロバーツ:著、斉藤隆央:訳/学研プラス)も、そんな奇跡の数々で間違いなく興奮させてくれるだろう。私たちの身体が、なぜ、今このような形になっているのか。実は私たちの生体の構造や機能は、自らの胚発生と進化上の過去の産物なのだ。本書は私たちが「たった1個」の細胞から、全部でおよそ100兆個に及ぶ細胞でできた「複雑な生物」になるまでの驚きの道のりを、「生命の進化」の痕跡に照らしながらドラマチックに見せてくれる。

 たとえばヒトは霊長類の中でも最も未熟な状態で生まれるが(チンパンジーは成体の4割近い脳の大きさだが、ヒトは成人の3割)、それはヒトの脳は他のヒトに囲まれ、社会や文化に浸りながら子宮の外で成長・発達するという「進化の結果」なのだという。

 では妊娠期間が短いのかといえば、体のサイズに対する妊娠期間で比べるとヒトが最長であり、これも進化の結果で、成人のヒトの脳がとても大きいので、なるべく長く胎内で脳を育てたいという戦略がある。

 しかし骨盤サイズには限界があり(あまり骨盤が大きくなると二足歩行に支障がでる)、胎児の頭が骨盤をギリギリで通過可能な時期に出産に至る。最新の研究によれば胎児が必要とするエネルギーを母体が充分供給できなくなってきたタイミング(母体の代謝量が通常時の2.1倍になったとき)が出産時期になるとのことで、その精緻なメカニズムには驚かされるばかりだ。

 本書にはこのように身体の構造や機能に残された進化の痕跡から、なぜその戦略がとられたかについて見せてくれるのだが、面白いのは骨、内臓、四肢など具体的な部位ごとに、私たち自身が母親の胎内で細胞分裂を繰り返していた「細胞時代の目線」をガイドに紹介されていくこと。精子がなんとか卵子にたどり着き受精卵になったところに始まり(ここであなた自身を「身籠った」ことになる)、胚が発生、無事に子宮に着床するだけでもジェットコースターのようにスリリング。かなりボリュームはあるが、豊富なウンチク話や独特のユーモアにもひきこまれ読み進めてしまう。

 著者のアリス・ロバーツは、イギリスBBCの科学番組等でも人気の解剖学と人類学のエキスパート(日本でも彼女の登場した「人類 遙かなる旅路」がNHK Eテレ『地球ドラマチック』で放送されたことがある)。2人の子どもの妊娠・出産で自分の胎内で命が育つ神秘にあらためて感動し、この本を書いたという。

私には、とにかく今ここに存在することが、途方もなく幸運に思える。今ここに存在しないことがどれほど容易にありえたか、ちょっとでも考えてみよう「最終章」より

 この言葉の通り、確かに「今、生きている」ということは奇跡の連続だ。生命の進化という途方もない時間軸の中で生き物としての“自分”を実感するのは、ちょっと不思議で面白い。

文=荒井理恵