ヒットメーカー・池井戸潤が描く爽快青春小説『アキラとあきら』が新装版文庫に! 半沢直樹との共通点は?

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/20

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『アキラとあきら』(池井戸潤/集英社)

〈幼いころの君は、どんな音を聴いていた?/幼いころの君は、どんな匂いを嗅いでいた?〉

 印象的な問いかけから始まる物語に、読者はきっと、自身の少年、少女時代を重ねるだろう。ヒューマンな社会派ドラマを次々と世に問うヒットメーカー・池井戸潤氏の新作『アキラとあきら』(徳間文庫)は、著者初の〝青春小説〟の趣が濃厚な作品である。

 江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『果つる底なき』(講談社文庫)に始まり、〝倍返し〟の決め台詞で大ヒットした「半沢直樹シリーズ」(既刊4冊、文春文庫ほか)、同じくドラマ化で人気を博した「花咲舞シリーズ」(『不祥事』講談社文庫・実業之日本社文庫)など、池井戸氏の原点ともいえるのが〝銀行もの〟。本作『アキラとあきら』も、その系統に連なる。主人公は、倒産した町工場の息子・山崎瑛と、名門海運会社のオーナー一族の御曹司・階堂彬。約700ページの大ボリュームは、同じ名を持つふたりの少年がそれぞれに夢を見、現実を知りながら成長し、銀行員になるまでの前半、そして入行した都市銀行で彼らがライバルとして切磋琢磨し、友情を育て、やがて手を携えて難局に立ち向かう後半に分けられる。

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 瑛は家族とともに苦しんだ少年時代の経験を克服し、彬は後継となるべく敷かれた人生のレールに逆らって、バンカーという職業を選択する。一見、対照的なふたりだが、ともに自らの宿命に抗い乗り越えようとする、その意志と姿勢はどこまでも清々しい。彬と向き合う瑛の態度に卑屈さは微塵もなく、一方の彬も、恵まれた環境にスポイルされることなく、瑛の力量を認めて自己を磨く。

 理想的な青年たちに対して、現実を担うのは周囲の大人たちだが、清濁併せ呑む強さと潔さを備えたふたりの父親をはじめ、瑛にビジネスのいろはを教えるクラスメイトの父、彬に生き方を示した祖父、長じて出会う銀行の上役と、誇り高い面々が揃う。唯一、悪役として登場するのは彬の家業を傾けるボンクラな叔父たちだが、彼らは彼らで人間味があり、そのボンクラさゆえに光る。

 作中、銀行の部長が言う〈バンカーの貸す金は輝いていなければならない〉の真価が問われるのは、クライマックス。傾いた家業を継いだ彬を瑛が助け、ふたりは経営再建への道を必死に模索する。土壇場で、瑛は自らに問う。〈なぜ、自分はここにいるのか。/なぜ、人を救おうとするのか。〉それは、社会人ならば誰もが一度は胸に投げかけたことのある問いだろう。彼がたどり着く答えもまた、どこまでもストレートで、感動的だ。

 美しすぎる? そう思うのなら、あなたはやや現実に倦み、疲れているのかもしれない。現役で青年期を生きる人はもちろん、ひととき重荷を下ろして自分の原点を見つめ直し、心の中に風を呼び込みたい〝大人〟社会人諸氏に、強くお勧めしたい。

文=大谷道子

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