ついに劇場版が公開!独創的なアイデアに支えられた、綾辻マジック横溢の傑作学園ホラー『Another』

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公開日:2012/8/6

揺るぎない作品世界に支えられて

 ミステリー的といえば、一分の隙もない構成も本作の大きな魅力だろう。冒頭からクライマックスまで、あたかも精密機械のように緻密なストーリーが展開してゆく。もっともこれが3年にも及ぶ長期連載になろうとは、当初は考えてもいなかった。

「連載開始時は各回80枚、全5回で完結させると公言していたんです。しかし、いざ書いてみると、これが予想以上に複雑な物語だった。キャリア20年にして、大幅な読み違えがあったなあ(笑)。全体のプロットは連載開始前に決めていたので、毎回ディテールをどう描くか、そちらの方が作業の中心でした。当時、自分の中では球体関節人形が再ブームだったので、人形ギャラリーに通って案を練ったり。その時々でディテールの工夫をこらすのは、苦労もしましたがなかなか楽しい作業でしたね」

 恒一が暮らす夜見山市は、日本全国どこにでもありそうな地方都市だ。綾辻さん曰く「京都を何十分の一かにしたような」そのサイズやたたずまいに、読者は自分の故郷にでも帰ってきたような、妙な懐かしさを覚えるだろう。それは作者である綾辻さんにとっても、同様だった。

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「連載中は私生活において、かなり大きな変動がありました。自分の気持が激しく揺れているだけに、作品世界の揺るぎのなさがすごく救いになった。作者とはまったく別の次元で、彼らがちゃんとそこに生活している。そのことにたびたび励まされましたね。連載が完結して、彼らと別れなければいけないのがちょっと淋しかった。ゲラになったものを読み返しながら、『いろいろありがとうね』と感謝したりしてね。作品を書き終えてこんな気持になることは珍しいんですよ。自分にとって非常にいい距離感のとれた作品でしたね。『暗黒館の殺人』の時なんて、二度とここには戻りたくない!という感じでしたから(笑)」

 謎と恐怖に導かれた壮大なストーリーは、戦慄のクライマックスによって頂点を迎える。そこで明らかになる、悲痛な真実。冒頭から巧みに仕組まれた綾辻マジックに驚愕するとともに、胸を裂かれるような哀しさに打たれることだろう。
 類を見ないアイデアに支えられたホラー。周到な伏線をはりめぐらせたミステリー。そして恒一ら3年3組の少年少女を、瑞々しい文章で描きだした青春小説。こうしたさまざまなテイストが見事に合致し、本作を紛れもない傑作に仕上げている。

「今のところ届いている感想では、アイデアの部分が怖かった、という声が多いみたい。思いついたとき、それほど怖さは意識しなかったんだけど。ミステリー的な仕掛けの面でも、序盤からはっきり読者にトリックを仕掛けるつもりで書いているので、気をつけて読んでみてください。本格ミステリーの読者で、『綾辻のホラー小説はもういいよ』と思っている人にも、きっと楽しんでもらえるはず。青春小説としての面も確かにあるので、これまで綾辻の作品に触れたことがない方にも、手にとっていただけると嬉しいですね」

取材・文=朝宮運河 写真=下林彩子

紙『Another アナザー』(上・下)

綾辻行人 / 角川文庫 / 各700円

26年前に死んだ生徒にまつわる怪談が、いまも秘かに囁かれている夜見山北中学校。東京から転入してきた榊原恒一は、クラスメイトの奇妙な振るまいに違和感を覚える。避けられない死の連鎖から恒一たちは逃れられるのか? 本格ミステリーの名匠・綾辻行人が満を持して放つ傑作学園ホラー!

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