畑仕事がしたくてたまらないっ! 前世の記憶を持つ貴族令嬢エレナの、転生農業ファンタジー!

マンガ

公開日:2022/7/2

土かぶりのエレナ姫
土かぶりのエレナ姫』(晴海ひつじ/白泉社)

 他人には理解しがたい言動だと分かっていても、自分にとっては捨てることのできない何よりの生きがい、ということが少なからずある。特に辛い時に自分を救ってくれたものというのは、いつまでたっても大切な宝物だ。『土かぶりのエレナ姫』(晴海ひつじ/白泉社)は、そうした前世の記憶から畑仕事に思いを馳せる、貴族令嬢の物語。白泉社が刊行しているコミック雑誌「LaLa DX」で連載されている作品だ。

 本作品の主人公は、ウィリ王国に暮らす15歳の貴族令嬢エレナ・カウロフ。エレナは生まれた時からザレ王国の名門貴族アルベルト・エバンテスの第4夫人になるために育てられてきたが、15歳の時、前世の記憶を呼び起こしてしまう。病弱だった前世のエレナは、療養先である田舎で農家の人と仲良くなり、植物の生命力に魅了された。そこで農業について学び、大きな農家で農作物を育てることを夢見ていたが――病に勝てず、志半ばで死んでしまったのだ。

土かぶりのエレナ姫

土かぶりのエレナ姫

 このことを思い出したエレナは、アルベルトや父親に「畑仕事がしたい」と申し出る。が、「日焼けや汚れは美貌を損なわせる」「お前の唯一の価値を下げることは許さない」と一蹴。

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土かぶりのエレナ姫

土かぶりのエレナ姫

 だがエレナは諦めきれず、ある日こっそり家を抜け出して、外にあるはずの農園へと向かった。そしてその先で転んでしまったことがきっかけで、ルイスという男性に出会う。ルイスは農園に行きたいというエレナを快く農園まで送ってくれた。

土かぶりのエレナ姫

土かぶりのエレナ姫

 そこで心ゆくまで畑仕事の手伝いを楽しんだエレナだったが――突如現れた竜の雷槌によって、畑は一瞬にして砂へと還されてしまう。竜に焼かれた土地は草木一本生えないといわれていて、状況は絶望的と思われた。しかしエレナは諦めなかった。前世で培った知識を頼りに、ルイスとともに農園の再生を目指すことにしていく。

土かぶりのエレナ姫

土かぶりのエレナ姫

 エレナが出会ったルイスという男性は、実はウィリ王国の第3王子。2人はザレ王国の計略により農民を奪われても諦めず、農地再生計画を王に認めてもらえる形まで持っていけるよう内密に試行錯誤を重ねることに。今までずっと父親とエバンテスの言いなりになるしかなかったエレナは、ルイス王子のおかげで畑仕事に携わる自由を手に入れたのだ。これはルイス王子がいたからこそ実現できたことではあるが、エレナの諦めない心、そして畑仕事への愛が生み出した結果でもある。1巻後半では、アルベルトとの関係にも大きな変化が――!?

 この『土かぶりのエレナ姫』は、エレナのような捨てきれないものがある、でも一歩踏み出せずにいる人に大きな勇気を与えてくれる。大人になればなるほど、新しいことに力を注ぐことは難しくなっていくものだが。しかし失敗を恐れて行動しないようでは、それは一生どうにもならないままだ。エレナの行動は、そうした当たり前だけど忘れがちな、大事なことを思い出させてくれる。今心に何か引っかかるものがある人は、本書を読んで、前に進む勇気をもらってみては? その一歩が、きっと気持ちを晴れやかにしてくれるはず。

文=月乃雫

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