霊獣・鳳凰に愛された呪禁師の少女が、毒物紛失事件の謎に迫る――ハイファンタジーにして痛快ミステリー『鳳凰京の呪禁師』

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/12

鳳凰京の呪禁師
鳳凰京の呪禁師』(円堂豆子/KADOKAWA)

 巨大な都、鳳凰京の朝廷で呪いや病を呪術で祓う専門職の「呪禁師(じゅごんじ)」。初の女性呪禁師を志す17歳の少女・緋鳥は、昇進試験に挑戦。そのさなか、厳重管理されているはずの毒薬が盗まれているのに気づき、しかも犯人扱いされてしまう――。

 古代日本を舞台にしたハイファンタジー、『雲神様の箱(角川文庫)』(KADOKAWA)三部作で多くの読者を獲得したファンタジー小説界の気鋭・円堂豆子さん。詳細な世界観と設定、生き生きとしたキャラクター造形、そしてファンタジーなればこその壮大なストーリーテリングで、物語を読む快感を存分に味わわせてくれた。そんな著者の持ち味が遺憾なく発揮された新シリーズ、『鳳凰京の呪禁師(角川文庫)』(KADOKAWA)第1巻が発売される。

 呪禁師のもとには、もののけや怨霊退治などオカルト的な相談ごとも持ち込まれるため、周囲からどことなく恐れられ、かつ畏れられている。緋鳥は7歳の頃に、呪禁博士である白兎に見込まれ、養子として引き取られた。以来10年間、呪禁師になるために研鑽を積んできた。

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 晴れて試験に合格したら、見習いから正式な呪禁師になれるのだが、落第したら次のチャンスは、なんと3年後だ。そんな大事な試験期間中に、毒薬紛失事件に端を発した陰謀に巻き込まれてしまう。

 勝ち気で毒薬フェチ(だから、あらぬ疑いをかけられてしまうのだが……)、頑張り屋で優秀な緋鳥。傲慢な貴族を相手に一歩も引かず、やり込める序盤のエピソードからすでに、この主人公のキャラクターが鮮やかに立っている。

 呪禁師の束ねである白兎お墨つきの才能を持つ彼女は、周囲の先輩たちからも一目置かれる存在だ。加えて、その才能に慢心することなく、懸命に努力してきた。鳳凰京のすべての人びと、とりわけ弱い立場に置かれている貧者や子どもの苦しみを少しでも取り除きたい――その思いが緋鳥を突き動かしている。それはきっと、彼女自身が孤児である背景からきているのだろう。

 人買いのもとから自分を救い出してくれた、親とも師匠とも呼べる存在の白兎。この2人の、師弟関係と疑似親子関係が混ざりあった独特の関係性が、物語全体をやわらかく包み込んでいる。

 刃や火から身体を守る「持禁」の術をはじめ、さまざまな呪術を駆使して緋鳥は毒薬紛失事件の真相へ近づく。京を守護する霊獣・鳳凰の力も借りて、クライマックスへ向かうにつれダイナミックな盛り上がりを見せていくのも、読んでいてわくわくさせられる。やがて浮かび上がってくるのは、次期帝の選出に絡んだ右大臣派と左大臣派の政争だ。

 権力に取り憑かれ、醜い争いを繰り広げる貴族たちの浅ましさと、その犠牲となる市井の者たち。今の時代とも相通じるやりきれなさを抱えながら、それでも緋鳥は宣言する。

「わたしが手を貸して誰かをすこしでも助けられるなら、この力を使いたい」。

 この誓いの言葉が、物語を介して現実にいるこちら側の胸にも迫ってくる。不条理のまかりとおる世の中を、それでも諦めたくない――。緋鳥の、そして作者のそんな思いが伝わってくる骨太にして爽快なハイファンタジー作品だ。

文=皆川ちか

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