祇園祭であやかし課が最強の敵と激突! 最高潮を迎える『京都府警あやかし課の事件簿』シリーズの最新巻

文芸・カルチャー

公開日:2022/9/9

京都府警あやかし課の事件簿7 送り火の夜と幸せの魂
京都府警あやかし課の事件簿7 送り火の夜と幸せの魂』(天花寺さやか/PHP研究所)

 第7回京都本大賞を受賞した、天花寺さやか氏の『京都府警あやかし課の事件簿』(PHP研究所)。大人気シリーズの最新巻『京都府警あやかし課の事件簿7 送り火の夜と幸せの魂』が、このたび発売となった。

 本作は、あやかしが絡むあらゆるトラブルを解決する京都府警の「人外特別警戒隊」、通称「あやかし課」に配属された古賀大(こが まさる)を中心とした物語。化け物から神様まであやかしにまつわるさまざまな事件と、特殊な霊力を有する隊員たちの活躍を描いたシリーズは、京都を舞台にしたご当地小説としても出色の出来を誇る。作者の天花寺氏は京都市生まれ、京都市育ち。京都の歴史や文化に対する深い造詣とリスペクトにあふれた描写の数々には、本を片手に京都の街角へ足を運びたくなるような魅力があふれている。

 最新巻に触れる前に、シリーズの概要を簡単に紹介したい。あやかし課の新人女性隊員・古賀大は、とある理由で京都御所の猿ヶ辻から魔除けの力を授けられて以来、髪の毛の簪を抜くと屈強な男性「まさる」に変身する能力を身につけてしまった。大は、表向きは「喫茶ちとせ」として営業するあやかし課の八坂神社氏子区域事務所に勤務し、雷の力を操るエース・坂本塔太郎や、薙刀の名手・山上琴子ら同僚と協力しながら、平和を脅かす化け物の捕縛や退治といった任務を遂行していく。「まさる」という自分でもコントロールしきれない強大な力を手に入れてしまった大は、さまざまな事件を通じて成長を遂げ、憧れの先輩である塔太郎との絆も深まるが――。

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 本作には鬼などの化け物のみならず、京都の有名な神社仏閣に祀られている神仏も多数登場する。親しみやすくて愛嬌のある神様や仏様にほっこりさせられるが、作中には人間と神仏の一筋縄ではいかない関係性も織り込まれている。シリーズが進む中で明かされるように、あやかし課の優秀な隊員で大が密かに思いを寄せる塔太郎は、八坂神社に多大な迷惑をかけた過去をもつ。それゆえ一部の人々から罰当たりと忌み嫌われており、塔太郎自身も八坂神社のご祭神・素戔嗚命(すさのおのみこと)に対する強い罪悪感を抱えているのだった。

 第6巻と第7巻では、塔太郎と深い因縁がある宗教団体「京都信奉会」との大激突が描かれる。京都の文化財を狙う京都信奉会の四神・船越は、夏の京都の風物詩である祇園祭の見物人を人質に取り、山鉾を奪う計画を企てていた。あやかし課の隊員たちは計画を阻止すべく立ち上がるが、最強の敵を前に苦戦を強いられる。

 あやかし課に訪れた最大の危機とその解決を描いた第7巻は、シリーズの集大成ともいえる盛り上がりをみせ、苦しい戦いの中で大と塔太郎がみせる成長と絆が心を打つ。ネタバレを避けるために詳細は伏せるが、塔太郎の心に救済が訪れる場面がひときわ印象的で、人と神仏の深い繋がりに胸があたたかくなった。今回の事件をきっかけに、これまでは両片思いが続いていた大と塔太郎のロマンスにも変化が訪れるだろう。第6巻の終わりでやきもきさせられた読者も大納得の、カタルシスに満ちた最新巻である。

文=嵯峨景子

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