『鬼の花嫁』作者のもう一つの和風恋愛ファンタジーは、芯のあるヒロイン像が小気味よい契約結婚ラブロマンス『結界師の一輪華』

文芸・カルチャー

公開日:2022/9/16

結界師の一輪華
結界師の一輪華』(クレハ/角川文庫)

 小説&コミカライズが大ヒット中のクレハ氏の『鬼の花嫁』(スターツ出版文庫)。そんなクレハ氏によるもう一つの和風恋愛ファンタジー『結界師の一輪華』(角川文庫)も好調だ。カドブン夏フェア2022の1冊に選ばれた本作は重版を繰り返すなど、大反響を呼んでいる。

 物語の舞台は、5つの柱石によって密かに外敵から護られている日本。柱石を結界で護っている五家の分家筋に生まれた一瀬華は、幼い頃から優秀な双子の姉・葉月と比べられ、両親からも虐げられていた。15歳の誕生日、落ちこぼれだった華は突如強大な力に目覚めてしまうが、家から解放されて静かな生活をおくるために覚醒した力をひた隠し、「姉の出涸らし」を演じ続けていた。ところが代替わりした本家一ノ宮の若き新当主・朔は華の力を見抜き、柱石の結界を完全なものとするために、伴侶になれと期限付きの契約結婚を迫る――。

 契約結婚から始まるラブロマンスと、柱石の結界や妖魔をめぐる異能バトルを描いた『結界師の一輪華』。本作は不幸な生い立ちの少女が見初められるというシンデレラストーリーの王道をおさえつつも、主人公の華が芯のある性格に設定されており、王子さまを待ち望む受け身の存在ではないのが爽快だ。「私が目指すのは葉月のような優等生なんかじゃなく、自由に生きること。誰の思惑にも左右されたりしない、私が私らしくいられる生活の死守!」。そんな生き方を望む華は、本家の当主である朔からの求婚もあっさりと断るが、媚びない姿勢が逆に気に入られてしまう。よい意味で強気かつ前向きな華の人物造型は小気味よく、「不遇で健気なヒロイン像」を軽やかに打ち壊していく。

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 一ノ宮家のトップに立つ朔は、整った容貌と高い能力の持ち主だ。実力に裏打ちされた傲岸不遜な若き当主が、落ちこぼれと蔑まれている華を溺愛し、彼女の前では飾らない姿を見せていく。華は朔の強引な手腕に当初は反発するが、やがて彼を信頼し、期間限定で伴侶となることを承諾する。普段は強気だが恋愛にはうぶな華と、尊大でありながら彼女にだけは甘さを見せる朔。2人の絶妙なやり取りにはきゅんとさせられる。

 華と朔を取り巻くサブキャラクターも多彩で、中でも彼らの式神たちは強いインパクトを残す。華が生み出した人形の式神・葵は大剣を背負ったやんちゃな美丈夫で、もう1人の雅は天女のような美貌の持ち主。2人は華を主(あるじ)様と慕い、華に触れようとする朔に対して過剰なまでに反発する姿が笑いを誘う。そして朔の式神・椿は、ツインテールの髪型にケモ耳メイド服姿という意表をつく外見。椿は葵に一目惚れして彼を追いかけ回すなど、個性豊かな式神たちの掛け合いも読みどころだ。

 9月21日に発売となる新刊『結界師の一輪華2』では、柱石を護る五家の中でも呪具などの道具製作を得意とする二条院家が登場し、危険な呪具を盗み出したテロリスト集団「髑髏と彼岸花」との戦いが描かれる。またこの巻では、双子の姉・葉月にも光が当てられていく。正真正銘のクズである華の両親とは異なり、単なる悪役では終わらない葉月と華がみせる絆にも要注目だ。小説の2巻に続いて、9月30日にはおだやか氏作画によるコミカライズ『結界師の一輪華 1』(B’s-LOG COMICS)も発売されるので、コミック派はぜひこちらからシリーズに触れてほしい。

文=嵯峨景子

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