小野小町、持統天皇、北条政子…「歴史をこじらせた女たち」の人生に迫るドラマチックな歴史エッセイ本!

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/22

歴史をこじらせた女たち
歴史をこじらせた女たち』(篠綾子/文藝春秋)

 歴史上の人物というと男性ばかりで、女性の印象がどうしても薄い。みんな大人しく控えめで、男性たちの一歩後ろを歩くようなタイプばかりだったのだろうか。

 そんなイメージを覆すのが、時代小説で知られる作家・篠綾子さんによる歴史エッセイ『歴史をこじらせた女たち』(篠綾子/文藝春秋)だ。篠さんによれば、日本の歴史の中で女性が活躍しなかったわけではないし、彼女たちがみな淑女だったわけではないという。型破りな行動を起こし、周囲を巻き込んだり、許されない恋に身を投じたり、時には陰謀をめぐらせたり……。この本では、「悪女」「猛女」も含む33人の女性をピックアップ。史実と照らし合わせながら、和歌を読み解きながら、時に想像をまじえながら、彼女たちの実像に迫っていく。

 嫉妬深すぎて夫婦関係をこじらせてしまった仁徳天皇の皇后・磐之媛。20歳以上も歳の離れた在原業平の部屋に押しかけた伊勢斎宮・恬子内親王。許嫁が次々と亡くなっていく縁起の悪い姫君・竹姫。——どの人物の人生もドラマチックだ。今まで名前しか知らなかった歴史上の女たちの姿が明らかにされるにつれ、どんどん想像力がかきたてられていく。

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 たとえば、「薬子の変」で知られる藤原薬子は、夫ある身でありながら、他の男性と関係を持った。それも、相手は、娘の夫、後に平城天皇となる安殿親王。許されざる二人の恋は桓武天皇の激怒を買うことになり、薬子は宮中から追い出されたが、平城天皇の御世になると、尚侍の地位に就いて彼に付き添い、譲位後も愛し愛され続けたのだという。一方、薬子の娘は本名も分からず、その後、どんな人生を辿ったのかも明らかにされていない。だが、篠さんは『大和物語』のある伝説に薬子の娘を重ねて、薬子の娘が夫と母の禁断の恋に傷つき、命を絶ってしまったように思えるのだそうだ。同じ罪を犯した者同士、薬子と安殿親王は強い絆で結ばれてしまったのではないかとつい想像してしまうのだという。

 篠さんの解釈は、小野小町についても興味深い。小野小町といえば、絶世の美女として知られるのみで、その人生はほとんど明らかになっていないが、その足跡は和歌に残されている。中でも有名なのは、百人一首に選ばれている「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」(意訳:長雨に ものをおもえば やるせなく 花もわたしも 色あせていく)という歌。「物思いにふけっているうちに、花の色があせるように、美しかった私の容色も衰えてしまった」と小町が自らの美貌の衰えを嘆いていると解釈される歌だが、篠さんに言わせれば、「小町の本心がそうだったとは限らない」。小町は「長雨を見ながら物思いにふける女」を演じるために、この歌を詠んだのかもしれないというのだ。

 また、小野小町にまつわる「なよやかな平安美人」というイメージを作り出したのは、『古今和歌集』「仮名序」で紀貫之が小野小町の作った歌を「よき女の悩めるところあるに似たり(高貴な女人が病で苦しんでいるような様子に似ている)」などと評したことによるもの。小町本人についてではなく歌についての評だが、これがそのまま彼女の「薄幸の美女」というイメージに繋がった。実際の小町の姿は謎に包まれたまま。だが、さらに想像を膨らませて、篠さんは小町が誰とも夫婦にならなかった理由についても検証を重ねていく。

 史実をもとに、篠さんは小説家ならではの視点で女性たちの人生を見つめていく。おしとやかなものと思っていた女性たちの意外な姿に惹き込まれるとともに、初めてその存在が身近に感じられる。歴史のなかで埋もれていた女性たちの人生。あなたもこの本でその多彩な生き様に触れてみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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