日本企業に根強く残るのはなぜ? 「失われたジェンダー30年」を取り戻すための『男性中心企業の終焉』の提言

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公開日:2022/10/19

男性中心企業の終焉
男性中心企業の終焉』(浜田敬子/文藝春秋)

 先ごろ発表された2022年のジェンダーギャップ指数で日本の順位は116位。またもや先進国で最下位と、かなり恥ずかしい結果となってしまった。とはいえ、ただ「あーあ」とガックリするだけでは何も変わらない。どうしたらギャップを埋めることができるのか、もっと真剣に社会全体で考える時が来ているのではないだろうか。

 このほど登場した『男性中心企業の終焉(文春新書)』(浜田敬子/文藝春秋)は、問題を自分事化するための一助となる一冊。メルカリ、NTTコミュニケーションズ、富士通、丸紅、キリン、城崎温泉の豊岡市――グローバル企業を目指す中で、業界の中での生き残りをかけて、さらにはコロナ禍でのリモートワーク普及の追い風を受けて、本気で女性活躍を推進している企業・団体の実例を通じ、ジェンダーギャップ解消には何が大切で何が足りないのかを具体的に考えていくというものだ。

 著者は2014年に女性初のAERA編集長に就任、現在はBusiness InsiderJapanのエグゼクティブ・アドバイザーであるジャーナリストの浜田敬子さん。本書は、そんな浜田さんの長年の取材の蓄積とご自身の経験が活きた渾身の一冊でもある。

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 思い返してみれば、日本に男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年で、そこからすでに30年以上経っているというのに現実は「ジェンダー後進国」――本書ではそれを「失われたジェンダー30年」と表現しているが、この時期はいわゆるバブル崩壊後の「失われた30年」とも重なるし、低迷を続ける日本経済の現在地ともつながっている。実はこの20年のさまざまな調査研究で、企業成長においてD&I(多様性と包摂の意)がプラスの効果をもたらすことが明らかになってきたとのこと。つまり「女性を人材として活かすことは経済成長にプラス」なのは間違いないし、逆に言えばこの日本経済の低迷は「女性を活用できなかったこと」にもその理由の一端があるともいえるわけだ。だったら「変えていくしかない!」のはもはや自明だろう。

 とはいえ、管理職の登用に企業側が数値目標を設定しても、当の女性自身がなかなか意欲を示さないため人材が見つからないなどの声もよく聞く。本書は「なぜ女性が意欲を持たないのか」という女性側の本音にも切り込み、企業と女性たちのギャップを浮き彫りにした上で、「ではどうしたらいいのか?」にきちんと切り込んでいく。さらには自らをアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)で縛る女性自身の意識、働き方についての世代間ギャップ、男性側の意識などさまざまな観点を包括的に捉え、やはり「では、どうしたらいいか?」を探っていくのだ。

 親に丸投げしていたといいつつも、子育てと週刊誌の編集長業をフルタイム勤務でこなした著者は、いわばスーパーウーマンだ。だが著者はそんな自分の経験を押し付けないし、そんなスーパーウーマン世代を疎ましく思う若い世代の気持ちにも理解を示す。「ロールモデルとなるリーダーシップのスタイルがないなら自分で創ればいい」「いろんな人のいいところをパッチワークして目標にしたらいい」といった自らの経験を踏まえたアドバイスには、きっと背中を押される人もいることだろう。

 著者は「10代半ばの娘が社会に出るころには、もっと女性たちが自身の未来を信じられる社会になってくれることを深く深く願っています」と本書を結ぶ。本当にそうした未来を実現するためにも、より多くの人に読んでほしい一冊だ。

文=荒井理恵

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