衝撃の結末でミステリーランキングを席巻中! 極限状況で“生贄”となる犯人探しを描く極上ミステリー【試し読みマンガあり】

文芸・カルチャー

更新日:2023/2/2

方舟
方舟』(夕木春央/講談社)

 全国のミステリー通と書店員が選ぶ『週刊文春ミステリーベスト10』2022国内部門、ミステリー感度の高い読者の投票で決定する『MRC大賞2022』で第1位をダブル受賞し、その他のミステリー賞でも続々とランクインを果たした夕木春央氏の『方舟』(講談社)。その“ネタバレ厳禁”な驚きの展開がTwitterでも大きな話題となった注目のミステリーだ。

 本作の語り手となる柊一は、大学時代のサークル仲間と従兄の翔太郎の計7人で山に囲まれた荒野にある謎の地下建築物“方舟”を訪れた。それは久しぶりに集まった仲間たちとの興味本位の探検みたいなものだった。

 地図にも載っていない“方舟”は過激派や犯罪組織のアジトとして使われていたのか、地下3階まである三層構造の広大な空間になっていた。各部屋にはさまざまな備品が置き去りにされており、中には拷問器具まであった。そこにキノコ狩りをしていて道に迷ったという親子3人連れが合流。すでに日も暮れていたため、計10人が方舟で夜を明かすことになった。

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 その翌朝、地震が発生したために事態は急変する。出入り口の扉が落石でふさがれ、地下3階から浸水が始まったのだ。浸水を止める術はなく、地下全体の水没は避けられない。その猶予はおよそ1週間。脱出する方法はあるが、それは10人のうち、ひとりが犠牲にならざるを得ないものだった。誰かひとりが命を捨てて他の者を助けるか、それとも全員が死んでしまうのか。過酷な選択を迫られる中、殺人が発生。犯人は生き残った9人の中にいる。犯人以外の誰もが思った。“方舟”から脱出するための生贄……それは殺人を犯した人間であるべきだ。極限状況のクローズドサークルで、命をかけた犯人探しが始まる――。

 多くの人命を救うためにひとりを犠牲にしてもいいのか。自分が助かるために他者を見殺しにしてもいいのか。その生贄が殺人者であれば、心の負担はきっと軽くなる。少しずつタイムリミットに近づいていく緊迫した状況で問われる「トロッコ問題」と「カルネアデスの板」。自らの生存をめぐる駆け引きと謎解きの緊張感は、最後の瞬間に向けて否が応でも高まっていく。

 生贄にするために殺人犯を見つけなければならないという、倫理観を揺さぶってくる残酷なストーリーがたまらなくスリリングだ。そして犯人はなぜ全員が死ぬかもしれないという状況で殺人を犯したのか、その謎を解く論理的な推理の果てに至る結末。読んだ人の誰もが呆然としたであろう超弩級の衝撃をぜひ味わってほしい。思わず読み返したくなり、再読すれば数々の伏線の恐ろしさにまた驚かされるだろう。

 この衝撃を体験した人同士で語り合いたくなること必至の1冊。ミステリー作家の有栖川有栖氏、本作の装画を担当した影山徹氏による解説を読むことができる読了者専用のネタバレサイトも公開中だ。

文=橋富政彦

▼読了者専用ネタバレサイト(犯人の名前と最後のセリフの記入が必要です)
http://book-sp.kodansha.co.jp/hakobune

▼試し読みマンガ

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