山田南平の人気作『恋するMOON DOG』のスピンオフ!『イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい?』

マンガ

公開日:2023/1/16

イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい? ~恋するMOON DOGスピンオフ~ 1
イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい? ~恋するMOON DOGスピンオフ~ 1』(山田南平/白泉社)

 最近会った友人に、恋人ができたらしい。食事をしながらその話を聞いたところ、アクティブな彼女は、休日、家にいたがるお相手に業を煮やしているようだ。ただののろけなので聞き流したが、彼女はお相手と過ごす休日に、新たな楽しみも見つけたという。自宅で好きなマンガを交換して読む、ストリーミング配信で映画を見て語り合う、一緒に料理を作って食べる……恋をして、知らなかった世界を広げつつある彼女に、ぜひすすめたいと思うコミックを発見した。『イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい? ~恋するMOON DOGスピンオフ~ 1』(山田南平/白泉社)という作品だ。

 主人公のマキこと牧村邦仁は、米軍基地のある街のバーで働いている。外国人客の多い繁華街で働いているだけあって、ちょっとやそっとでは動じない……はずだったが、その夜はそういうわけにもいかなかった。仕事から帰ってくると、自宅の玄関先に甲冑が倒れていたのだ。

©山田南平/白泉社

 甲冑には、ちゃんと人間の中身が入っていた。草いきれと泥と煤、血のにおいのおまけつきだ。異様にガタイのいいその中身──ハスキー犬のような色の目をした外国人は、なまりの強い英語を話し、どうにも会話が成り立たない。動物を拾ってきがちな性格が災いし、始発で帰るようにと言い含めて泊めたものの、彼の様子はおかしかった――。

advertisement

 風呂に入るだけで大騒ぎ、ドライヤーにもパソコンにもビビり通し、眠るときは全裸で布団にもぐる。言葉も文化もまるでわからず途方に暮れてしまったマキは、彼を職場に連れて行った。すると、客のひとりが、彼が話しているのは中世の英語だと突き止めてくれ、翻訳アプリを通した会話が可能になる。ところが、言葉がわかるようになると、謎はさらに深まった。なんと彼は、14世紀のイギリスから来た騎士、グラント卿だと名乗ったのだ。

 マキは、記憶が混乱しているらしい彼の面倒を見ることになるのだが、もちろん文化や環境で、生活やスキンシップの習慣は違う。外国ではキスもあいさつだし、日本人でも自宅では裸で過ごすという人もいるだろう。ただ、あいさつのキスで舌を入れるか? 夢見の悪さを慰めるために、肌と肌とをふれあわせるか? これは異文化体験なのか、それとも「そうじゃない」ふれあいなのか。グラントに振り回されつつも、どこか彼を放っておけないマキは、日に日に丸め込まれていることを感じていて……?

 誰かも歌っていたけれど、よく考えれば恋なんて、育ってきた環境の違うふたりが、たがいのことを理解していく過程である。そりゃアクティブだった人間がインドア趣味に目覚めたり、令和の日本人が14世紀の英国騎士に懐かれたりもするだろう。そして他人の恋バナは、意外性があるほど「なんじゃそら」とツッコめておもしろい。そう、だからこのコミックは、抜群におもしろいのだ。

 著者の人気連載『恋するMOON DOG』のスピンオフである本作品、ピュアな恋にキュンとするもよし、著者の描くイイ男たちにうっとりするもよし、恋という名の異文化交流の妙を楽しむもよし。「他人の恋バナ」と言うには親身になりすぎ、ニヤついてしまうので要注意。

文=三田ゆき

あわせて読みたい