ジャーナリスト・落合信彦とメディアアーティスト・落合陽一の親子初共著!ふたりが考える世界の未来は?

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公開日:2023/1/24

予言された世界
予言された世界』(落合信彦、落合陽一/小学館)

 今や様々な方面から引っ張りだこのメディアアーティスト・研究者の落合陽一氏と、父である国際ジャーナリスト・落合信彦氏。親子初となる共著『予言された世界』(小学館)は「家族談議」はほぼ論じず、「日本の未来談議」をマジメに切々と淡々と説いている一冊です。

 とはいっても、もちろん落合家特有の家庭の様子もいくらか描かれています。本書冒頭では「ある日学校から帰ってきたら、家に父を訪ねて有名建築家の黒川紀章がいた」ということがサラッと書かれた後に、父に対する敬意が静かに表現されます。

30歳を過ぎて、様々なプロジェクトや仕事に関わるようになり、「お父様の本を読んで人生がうまくいきました」とおっしゃる方に出会うことが多くなった。「どううまくいったのですか」と尋ねると「人生の選択をするときに、落合信彦先生ならどっちを選ぶかと考えた」「留学して人生が開けた」と返ってくる。父に背中を押されたのだという。

 落合信彦氏はアイルトン・セナ氏、マーガレット・サッチャー氏、アウン・サン・スー・チー氏など世界の著名人への数え切れないほどの取材や交流を経験し、著書の総発行部数は2000万部を超えているといいます。そのような父と、息子・陽一氏が「さあ話そう」と向き合うと、どんな話題が出てくるのでしょうか。

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 テクノロジーやアートの最新動向についてなど、息子側の「若い」話題が多いのではないかと筆者は予想していましたが、どちらかというと父側の専門領域である政治の話題が多くを占めていました。ただ、専門的な知識が必要な政治談議というよりは、「人間ひとりの考えと行動で、世界は変わり得る」という家族内の共通認識をもとに、政治の話をしているように思えました。そのため同時に、題名にある「予言」というのは、考えていたことを実現できると、これから実現することをいくらか予見できるようになる、ということではないかと思いました。正答かどうかの予言ではなく、あくまで知性を磨きあげるためのツールのひとつであるというのが、落合親子の共通認識なのでしょう。

 本書で語られている「未来」について、政治以外にどんなトピックがあるかといえば、教育が挙げられます。「答えなき時代」を生きていくため、これからの教育にどんなエッセンスが必要だと思うかという質問に対して、筑波大学等で教鞭も執っている陽一氏は、人口増加の著しいインドに着目していることを語ります。そして、現状の日本の教育というのは「ドイツ型」で、そこから脱したほうがいいと提案しています(本書では「ドイツ型」の教育方式に関して詳述されていませんが、講義・討論・ゼミ・実験などを通じて教授と学生が共に研究に取り組む、日本の一般的な大学教育のスタイルを指しているのでしょう)。

教員をやってみればわかりますが、試験で一番難しいのは問題を作ることです。なぜなら出題範囲があり、その中で答えを間違ってはならないからです。答えを出し、問題も作るのは難しい。それを学生にやらせればいいんです。

 想定していないような出来事が次々と起きる中で、問題対処力・課題解決能力といったスキルの重要さはもとより、問題・課題を見出す力はより需要が高まっていて、その力を身につけるためには事物や現象を多層的に分析する深い洞察と向学心が必要だと本書では説かれています。何より、ひとりの人間の考えで戦争が起こってしまうし、かと思えば、ひとりの人間の創造から花咲いたアート作品が人々に安らぎを与えることもあるということを踏まえた上で、「人間ひとりの考えと行動で、世界は変わり得る」ということをポジティブに解釈する必要があるということです。

「予言」というのは結果を当てるためではなく、逆算して「今何をすべきか」と、細かなプロセスを具体化していくために存在している。そんな落合親子秘伝の信条に、読書を通してあやかることができる一冊です。

文=神保慶政

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