いま読むべき『資本論』。資本主義の矛盾を明らかにした名著からネットやコロナなど現代社会を見通す

社会

公開日:2023/3/14

ゼロからの「資本論」
ゼロからの「資本論」』(斎藤幸平/NHK出版)

 カール・マルクス(1818~1883年)の著書『資本論』は、キーワードとして世界史などに出てくるので、書名を知っている人は多いだろう。資本主義の矛盾を明らかにした名著であるが、これを「読み通した」という方はかなり少ないはずだ。その理由はとにかく難解なことにある。独特の言い回しや知識がないと理解できない記述が多く、その回りくどさに理屈ばかりをこね回しているように感じ始め、読み進めても読み進めても一向に減らない分厚さに「あ~もう、わからん!」と投げ出してしまうのだ。

 そんな難解な『資本論』の内容をわかりやすく、そして現代の問題に置き換えて丁寧に解説してくれる新書が出た。その名も『ゼロからの「資本論」』だ。順を追って読めば、マルクスの『資本論』がどんなことを論じているのかの端緒をつかむことができる。著者はベストセラーとなった『人新世の「資本論」』を書いた東京大学の斎藤幸平准教授だ。斎藤先生はどうして2020年代に“コミュニズム”なのか、第1巻が1867年(日本はまだ江戸時代だ)に出版された古い本を今読む必要性はどこにあるのか、社会主義や共産主義が失敗してきた歴史についてはどう説明するのかなど『資本論』に関する懸念や拒否反応をひとつひとつ俎上に載せ、「なぜ今読むべきなのか?」を丁寧に解説していく。

 ここでちょっと身の回りを見てほしい。あなたの周囲にあるものは、ほとんどがお金を出して買った(製品として市場で売られている)ものではないだろうか? ネット上の無料の記事や動画でさえ、広告という形でプロダクトが絡んでいる(このダ・ヴィンチwebも例外ではない)。現代の私たちは、どうあがいても資本主義からは逃れられないのだ。しかしここ数年、コロナ禍の影響などもあって社会の矛盾が浮かび上がり、「何かおかしいのではないか?」「このままではいけないのではないか?」「自分に何かできることはないのか?」と考える人が増えてきている。そんな「今の社会、働き方、毎日の暮らしがなんだかおかしい」と感じている方たちにとって、本書は有益な情報をもたらしてくれることだろう。

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 人類の経済活動が地球全体を覆うようになり、開発などで自然を本質的に変えてしまうと、地球規模のパンデミックや気候変動を引き起こす危険性はこれまでもずっと指摘されてきた。しかし経済成長することが前提の資本主義はとどまるどころかさらなる成長を遂げようとし、経済格差は今も開き続けている。また2019年にはCOVID-19による世界的なパンデミックが発生し、世界各地で気候変動によると見られる猛暑や大雨、洪水、山火事といった甚大な被害が続出し、農業や漁業などにも深刻な影響を与えている。これらは、私たちの行き過ぎた経済活動が大きな要因であることはほぼ間違いないのだ。

 そうしたことを踏まえ、なんとしても本書をお読みいただきたいのが、地球の危機を危機だとさえ感じていない方、そして「マルクス」「共産」「コミュニズム」「コモン」という言葉だけで拒否反応を起こす方たちだ。知識を20世紀から21世紀へとアップデートするため、ぜひともご一読賜りたい(さらに『人新世の『資本論』」を読むと一層理解が深まるはずだ)。

 本書を読んでいてふと思い出したのが、1988年公開の映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』だった。

 衛星を落下させて強制的に寒冷化させ、地球を人が住めない星にしようとしたシャア・アズナブルは「地球に住む者は自分たちのことしか考えていない。だから抹殺すると宣言した」「地球がもたんときが来ているのだ」と声をあららげた。しかしシャアの宿敵アムロ・レイは「やってみなければ分からん」「貴様ほど急ぎ過ぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない」と性急なシャアの思惑を阻止しようと、希望の言葉を口にする。地球の危機は遠い未来の話だと思っていたが、21世紀の地球はかなりの危機的状況となっている。だからこそ端から無理だと決めつけず、何事もやってみなければわからない。これまでに蓄積されてきた人類の叡智は、伊達じゃないのだ。

文=成田全(ナリタタモツ)

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