ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、室橋裕和『北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本』

今月のプラチナ本

公開日:2023/5/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年6月号からの転載になります。

『北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本』

●あらすじ●

群馬県高崎市から始まり、北関東を横断し太平洋に至る国道354号線。この沿線にはパキスタンやブラジル、タイなどさまざまな外国人コミュニティが多く存在する。そんな「エスニック国道」を進む中で出会ったのは、明るく逞しい住民に、彼らの作る美味しい異国飯。しかし、彼らと話すうちに、技能実習生の待遇や難民問題など、彼らを悩ませる日本の課題も少しずつ見えてきて――。

むろはし・ひろかず●1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイや近隣諸国などを取材。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。著書に『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書)など。

『北関東の異界  エスニック国道354号線  絶品メシとリアル日本』

室橋裕和
新潮社 1760円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

いま、会いに行きたくなるノンフィクション

人やモノが、あの街道を行き来する。その匂いが、足音がする。だからこそ、会いに行きたくなる――肉体の移動が物語を生むことを、その豊かな雑味を煮詰めたのが本書だ。きっかけはMONEYであっても、そこには必ず人だ。だからこそ仕事や生活がある。そんな至極まっとうなことを、354号線にフォーカスしたロード・ムービーとして、食を巡るドキュメントとして、そこに生きる人々のドラマとして――多様な切り口から作家が描く。晴れやかな5月、みんなで食べ読みたい一冊。

川戸崇央 本誌編集長。本書に触れ『人間は何を食べてきたか』というドキュメンタリーを思い浮かべた。ルート354を映像作品としても是非楽しんでみたい!

 

食い意地に導かれて北関東にずぶずぶと

異文化を前にすると私はいつもうろたえてしまう。知らない土地、知らない言葉、知らない神。あらゆる前提が違う相手に、好奇心よりも怯えが先立ってしまうのだ。しかし「絶品メシ」に限っては話が違う。むしろ未知であるほどわくわくする。そのような人間の心理を心得ている(?)室橋さんは、さまざまな異国メシのディテールを記述しながら、読者を354号線の先へ先へと導いてゆく。気づけば怯えは好奇心へと裏返り、スマホのGoogleマップはピンだらけ。おそるべし魅惑の北関東。

西條弓子 『気になってる人が男じゃなかった』新井すみこさん独占インタビュー&試し読みを78Pより掲載。多様性あふれるTwitterコミックの最先端をぜひ!

 

北関東の異世界から今の日本も見える

北関東にある〈異国の街〉に関して度々テレビで取り上げられていたので、うっすらその存在は知っていたが、それが国道354号線沿いであること、これほど多くの国と地域の人々が定住していること。そこにある歴史と曖昧さ、浮き彫りになる雇用問題等日本の問題点など、本書でより濃密に知ることができた。茨城東南部の鉾田市あたりに外国人が増えたきっかけが、「アントラーズじゃないかなあ」という答えになるほど!と。サッカー場で見かける海外の人。フランクに話しかけたくなった。

村井有紀子 星野源さん「いのちの車窓から」が今月で最終回をむかえました。2014年企画連載スタート時から、今日まで担当できて幸せでした。

 

異国飯からも感じられるエネルギー

コンビニエンスストアや飲食店、私たちの生活は至るところで海外からやって来た人々の働きに支えられている。しかし、その人となりに思いをはせることは少なかったように思う。思春期の娘に悩み、高齢化に直面する。本書には、国道354号線に暮らす外国人がリアルに描かれており、ようやく顔が見えた気がした。逆境はあれど、時代の流れに合わせ、商いを変化させ順応するタフさにも驚いた。そして、彼らの胃袋を支える異国飯からも、匂い立つようなエネルギーを感じられるのだ。

久保田朝子 前号で特集した『花より男子展』へ! 原画の数々を食い入るように見つめてしまいました。花沢類の奏でるバイオリンの音色にもうっとりです。

 

“食べる”ことで世界と繋がる

日本人に忖度しないガチのパキスタン料理が食べたい――。そんなきっかけから国道354号線沿いを訪れる著者。日本で働く移民や技能実習生たちと知り合い、彼らの文化にも深く触れていく。特に印象深かったのが、「実習生に依存しすぎて、作業をなにもかも任せた結果、農業のノウハウがゼロになった農家もある」という言葉。本書を読むと、日本はもう何十年も前から彼らに頼りきりだったことが分かる。美味しい食を入り口に、いまこの国で一緒に暮らす彼らについて知ってほしい。

細田真里衣 先日、通販で靴を買いました。早速履いてみると、サイズが合わず歩いて5分でひどい靴擦れに! まさかこんなことになるなんて。試着って大事。

 

この世界を知る醍醐味

外国人コミュニティが多いといわれる、北関東を東西に走る国道354号線の沿線。そこで著者が出会うのは、さまざまな背景をもち日本へとやってきた外国人だ。日系移民の子孫や難民、技能実習生――製造業や農業など多様な場で働く彼らの姿から、少子高齢化の進む日本社会は外国人労働者によって支えられているという現実が見えてくる。同じ国に住む彼らのことをこんなにも知らなかったとは。この世界を改めて知る、そんなノンフィクションの醍醐味が本書にはつまっている。

前田 萌 愛犬と旅行にいきました。旅行先が山の方だったため通信環境が整っておらず、意図せずデジタルデトックスも。日々の疲れも癒やされました。

 

異国飯と歴史を味わう

食事には多くの情報が詰まっている。どんな国で生まれて過ごしてきたのか。普段食べているものは、自分のバックグラウンドを表すもののひとつとなる。それは飲食店も同じだ。お店の佇まいやお客さんからその地域の背景が垣間見える。「ひとつの文化がその土地に入り込み、混じり合っていくというのは(略)人々の葛藤の繰り返しなのかもしれない」。どの地域にも必ず壮大な歴史があることを思い知る。国道354号線を通して見える人々の生活と食事の風景をぜひ味わってみてほしい。

笹渕りり子 料理の仕方もそれぞれ性格が出ますよね。かくいう私はレシピを見ながらも、調味料は目分量でいくタイプ。ビビリで大雑把な性格が滲み出ている。

 

日本を支える「見えない人々」

北関東、354号線が貫く地域にはモスクや現地食材のスーパーが立ち並び、様々な国籍の人が文化を育み、日本の産業を支えている――。こんなに身近な場所なのに、この事実をよく知らなかったということがショックだった。ニュースとして目にすることはあっても、彼らと実際に交流を持つ人を、直接は知らない。「外国人は、透明な存在なんですよ」の言葉が胸に刺さる。同じ国で暮らす者同士として、彼らの暮らしに思いをはせ、身近な存在として捉えなおすきっかけとなる一冊だった。

三条 凪 道中、筆者がレポートする多国籍料理がなんとも美味しそうだ。最も気になったのはパキスタン料理の「ハンディ」。グルメガイドとしても楽しめる。

 

食という営みで世界と日本を俯瞰する

私の家からさほど遠くない当該国道。そこにこれほどまでの外国人コミュニティがあるとは。本書を読んで、日本で暮らす外国の方々の強さや逞しさに憧れ、彼らの作る異国飯の描写にお腹が鳴る一方で、彼らの置かれた状況に無知であり無関心だった自分を恥じた。この国ではお互いがお互いを支え合う必要があるにも関わらず、いまだに環境が整っていないという現実を受け止める。食という各地域の文化を反映しつつも、誰しもにとって身近な営みを通して、世界と日本の未来を考えた。

重松実歩 大きな川や道沿いを歩くのがとにかく好きです。エスニック料理にも目がないので、国道354号線に沿って散歩しつつ、ひたすら食い倒れてみたい。

 

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