子どもが本好きになる本発見! “読み方”は一つとは限らない。図書館司書が「すごい!」とうなった、想像力が育まれる「銭天堂」シリーズ著者の名シリーズ

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/17

ふしぎな図書館と魔王グライモン
ふしぎな図書館と魔王グライモン』(廣嶋玲子:作、江口夏実:絵/講談社)

 廣嶋玲子氏の「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ(偕成社)が、児童書にもかかわらず大人たちからも強く支持されているのは、「こうなったらいいのに」の些細な願望がいかに危険な欲望に変わりうるかを突きつけてくる“ゾクッと感”があるからではないだろうか。『鬼灯の冷徹』の著者・江口夏実氏のイラストでも話題の、廣嶋氏の新作「ストーリーマスターズ」シリーズ(講談社)もまた同じ。たとえ誰かを思いやってのことだったとしても、安易な願いは幸せどころか破滅を呼びこんでしまうのだということを、古来のおとぎ話を通じて描きだす。

 第1巻『ふしぎな図書館と魔王グライモン』は、小学4年生の少年・宗介がグリム童話の物語世界に入り込んでしまうところから始まる。魔王グライモンによって物語のキーパーツが盗まれたせいで、展開が改変され、めちゃくちゃな結末を迎えてしまったおとぎ話をもとに戻すヒーローとして選ばれたのだ。

ふしぎな図書館と魔王グライモン p.12

 たとえば『ヘンゼルとグレーテル』では、兄妹仲がめちゃくちゃ悪くなっており、グレーテルはいじわるな兄に復讐するべく、魔女に味方し兄を生贄としてささげ、みずからも魔女になってしまう。『ラプンツェル』では、魔女がラプンツェルを溺愛するため、ラプンツェルは塔から出たいなんてつゆほども思わず、王子に出会うこともないまま一生を終える。それはそれでおもしろそう、と思ってしまうところがこのシリーズのミソなのだが、宗介たちが物語をもとに戻そうとして、あるいは危機から救おうとして、「こうすればいいんだ!」と思いついてとった行動が、必ずしも良い方向に転がるわけじゃない、というのもまたおもしろい。

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ふしぎな図書館と魔王グライモン p.36~37

 2巻『ふしぎな図書館とアラビアンナイト』では、読書家ゆえにちょっぴり頭でっかちな葵が千夜一夜物語の世界へ、3巻『ふしぎな図書館とやっかいな相棒』では、ポジティブすぎて空回りしがちなひなたが、超ネガティブな作家・アンデルセンを相棒に、彼が書いた童話の世界へと招かれ、魔王グライモンとの戦いに挑んでいく。物語の修復を通じて、子どもたちが人の痛みに触れ、みずからの弱さとも向き合い、成長していく姿にはっとさせられる大人も多いのではないだろうか。とくに3巻、アンデルセンがどうして『マッチ売りの少女』などの悲しい物語を多く描いたのか、その想いに触れたところには、胸を打たれた。人生にはさまざまな理不尽や悲しい出来事が起きるけれど、安易に思いついた「こうすればいい」に飛びつくのではなく、自分やまわりの人の人生にとって、なにがいちばん大切なのか、最善を考えつくすことこそが必要なのだと、このシリーズは教えてくれるような気がする。

ふしぎな図書館とやっかいな相棒 p.26~27

 魔王の協力者である謎の少女が「物語のこういうところに納得がいかない!」とツッコミを入れていくのも、おもしろい。あるべき一つの結末に正すということは、決して、読み方を一つに限定するということではない。性格の異なる3人の主人公たちが物語を通じてほんの少し距離を縮めていくように、敵対する魔王たちとさえ、物語を通じて仲良くなっていけるような気がする。そんな、不思議なあじわいのあるシリーズである。

文=立花もも

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