元庶民・現お嬢様はロックを嗜む!? 「学園最高の淑女の称号」とロックバンドの両立はできるのか『ロックは淑女の嗜みでして』

マンガ

公開日:2023/5/12

ロックは淑女の嗜みでして
ロックは淑女の嗜みでして』(福田宏/白泉社)

 音楽を好きになって楽器を弾き、あまつさえバンドを組む。学生時代にそこまでやる人間たちを私は眩しく感じ、好ましく見ていた。ただ彼ら彼女らを見ているのが好きだったのだ。大人になった今は周りにバンドをやっている人間はいない。けれど相変わらず音楽を楽しみ、輝く彼ら彼女らのことは気にしている。それはマンガの中でもだ。

ロックは淑女の嗜みでして』(福田宏/白泉社)は、女子高校生がロックバンドを組む物語だ。バンドを題材にしたマンガは枚挙に暇がない。マンガ好きなあなたなら、すぐに何作品も頭に浮かぶはずだ。本作には、そんな数多くの名作たちにも負けない魅力がある。

 主人公とその仲間たちがバンドを組んだのは超のつくお嬢様学校――ロックを嗜むなどありえない環境だ。そこで彼女たちはやりたいようにやっている。自分をさらけ出し、仲間たちとぶつかり合って激しい音楽を紡ぎ出している。お嬢様たちは紙面から眩い輝きを放ち、私は心を鷲掴みにされた。

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最高のお嬢様とガチなギタリストに私は、なる!

 全国からハイクラスな家のお嬢様が集う桜心女学園に転入してきた鈴ノ宮りりさ(すずのみや りりさ)。彼女は、所作は完璧でテストでも学年トップクラスの成績をとり、すぐに学園生の憧れの的になっていた。

ロックは淑女の嗜みでして P7
©福田宏/白泉社

 ただ、りりさは親の再婚で鈴ノ宮家に入った元庶民だった。そんな彼女の趣味はロックで、遊ぶことや友だちをなげうって、一心にギターを弾き続けていた過去があった。しかし今は学友たちとクラシック音楽を語り合うお嬢様となり、学園最高の淑女の称号「ノーブル・メイデン(高潔な乙女)」を目指し、ロックは封印していた。そんな彼女は箱庭のようなお嬢様学校の窮屈な生活に無理やり適応しようとして、つぶれそうになっていた。

ロックは淑女の嗜みでして P30
©福田宏/白泉社

 ある日りりさは誰もいないはずの学園の旧校舎で、ロックのドラムの音を耳にする。音楽が聞こえた教室のドアを開けると、そこには同じ学年の黒鉄音羽(くろがね おとは)がいた。彼女は政界の重鎮の娘で、筋金入りのお嬢様だ。しかしそこで彼女は汗にまみれて髪を振り乱し、激しくドラムを叩いていたのだ。音羽はりりさの指のタコを見てギターが弾けることを看破すると、「交わりましょう」と迫ってきた。彼女が言う“交わり”とは一緒に演奏するセッションのことだ。

 嫌がるりりさは音羽に「上手ではないのですね」と煽られ、なしくずしにセッションをしてしまう。音羽のドラムテクと人格が変わったような彼女にとまどいつつ、その日は別れた。だがそれから音羽は「今度はいつ交わりましょう」「次はいつやりましょう」と言いながら、りりさにつきまとうようになった。

ロックは淑女の嗜みでして P75
©福田宏/白泉社

 ギターを捨ててお嬢様の道をまい進する気だったりりさは、生まれながらの淑女である音羽に「ロックなんてお嬢様がやることじゃない」と口にする。しかし音羽はドラムを叩きながら逆に演奏へ誘い、こう言ったのだ。

お嬢様とか そうじゃないとか(中略)
どんな事情も一切関係ありません
好き以外にやる理由があるなら教えてください

 セッションするなかで音羽の煽りと演奏の楽しさが、りりさの心に突き刺さる。彼女は自分を偽れないこと、ギターなしでは生きられないことをはっきりと自覚し、セッションの先へ踏み出すと決意する。すなわちバンド結成である。

 だが、りりさは、学園一のお嬢様になることも捨てるつもりはない。本作は青春バンドストーリーであり、ロック少女がお嬢様として生きていく物語でもあるのだ。

屈服するのはどっち? “交わり”という名の激しいセッション

ロックは淑女の嗜みでして P127
©福田宏/白泉社

 本作の見所は、曲が聞こえてくるような演奏シーンである。ハイテンションで血沸き肉躍る演奏がド迫力で描かれている。音羽とりりさのセッションはまるでバトルだ。強力なリズムですべてを屈服させようとするドラム。限界ギリギリまで感情を暴走・爆発させて演奏をリードしようとするギター。この楽器によるつばぜりあいのあとには毎回必ず、テンションがブチ上がった淑女たちの口汚い罵り合いが待っている。

ロックは淑女の嗜みでして P132
©福田宏/白泉社

 そこには、しとやかなお嬢様同士のような、お互いを優しくたたえ合うだけの関係はない。りりさと音羽は、本音をぶつけ合ってお互いを高めていく仲間でありライバルなのだ。

 2人の淑女は箱庭でバンドを組み、激しい“交わり”を広大な世界へ見せつけるかのように歩み出す。アマチュアオーケストラの臨時メンバーになり、新たなセッションをするためのバンドメンバーを募る。

 彼女たちはこれからどんな風に輝いていくのだろうか。光に引き寄せられるように、私は今『ロックは淑女の嗜みでして』から目が離せないでいる。

文=古林恭

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