ギリシア神話×日本神話×戦国武将の歴史ファンタジー! 人間を石像化するメデュウサの怨霊に人は打ち勝てるか!?

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/13

メデュウサ天翔
メデュウサ天翔』(アポロン犬城/中央公論事業出版)

 歴史を題材にしたファンタジー小説は多くある。だが、これほどまでに様々な歴史を混在させ、ひとつの物語としてまとめあげた作品と出会ったのは、初めてだ…。『メデュウサ天翔』(アポロン犬城/中央公論事業出版)は、そんな驚きをくれる斬新な歴史ファンタジーである。

 本作の舞台は応仁の乱が勃発してから、およそ百年後の戦国時代末期。乱世もようやく終焉に向かい始めた文月(陰暦七月)の半ば、邪悪な妖怪が越後の地に忍び込む――。

人間が次々と石像化!僧侶と戦国武将がメデュウサの怨霊に立ち向かう

 春日山林泉寺の住職・宗謙は、村で起きている怪事に頭を悩ませていた。なんと7人もの村人が失踪し、その後、失踪者に酷似した石像が見つかっていたのだ。

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 宗謙が祈祷を行うも、怪事は収まらず。やがて、宗謙の弟子も失踪し、彼に似た石像が発見された。もしや、人間を石像化する妖魔が存在しているのではないか。そう考えた宗謙は武術に長けた双子の荒法師・龍海と項雲を頼り、妖怪退治を決行。

 すると、村で失踪事件が集中する満月の夜やその前後に家を飛び出しては記憶を失くして帰ってきていた椿という少女が現れる。椿は髪が蛇に変化し、人間ではない容貌になっていた。

 戦いにより、椿は項雲に倒され、村は平和を取り戻す。だが、やがて、宗謙と項雲は悪夢にうなされるようになり、村には妖馬が出現。そんな時、救いの手を差し伸べたのは諸国行脚の旅から帰郷した、盲目の僧侶・劉真だった。

 一連の怪事を聞いた劉真は、妖怪がギリシア神話に登場するメデュウサではないかと考察。そして、妖魔と闘う中で、メデュウサの悪霊が宿主を探して取り憑き、人間を襲っていることに気づく。

 滅するべきは、宿主に取り憑いた霊体。そこで、宗謙たちはメデュウサを倒すべく、知恵を絞る。

 一方、三葉実顕の娘・雪姫は親子の縁を切って上杉謙信のもとへ身を寄せたが、謙信と武田信玄が戦を始めたことで、心配が募る日々を送っていた。いても立ってもいられなくなった雪姫は、戦場へ。だが、そんな雪姫や謙信にもメデュウサの悪霊は牙をむく。

 また、謙信らの合戦が本格化すると、人々の憎悪や怒りの感情に惹きつけられ、ギリシア神話のアレス、エリス、タナトスの三邪神も出現。人間vs.妖魔の激闘は、さらに過熱していくこととなる。

 相手の弱点を踏まえて進化変容を遂げるメデュウサや大量殺戮の場を求める三邪神たちの狙いとは一体…? 意外なラストにも注目しながら、戦いの行く末を見届けてほしい。

史実とは違った“もうひとつの戦国時代”にハラハラドキドキ

 本作はギリシア神話や戦国武将、日本武尊(ヤマトタケル)や素戔嗚尊(スサノオ)といった日本神話の英雄など、絶対に交わらないものが融合され、新しい歴史が作られていておもしろい。

 歴史ファンタジーを手に取る時は自分の知識量が心配になることもあるが、作者はギリシア神話や偉人に関する説明を物語に織り交ぜながら丁寧に解説してくれているので、知識ゼロでも安心して楽しめる。

 上杉謙信や武田信玄など実在した偉人が登場するため、フィクションなのに妙なリアリティがあり、世界観に入り込みやすい。テンポがいい横書きの文体にハラハラドキドキさせられる、この歴史ファンタジーには唯一無二の魅力があるのだ。

 また、あとがきには著者の歴史愛や本作に関する解説が数十ページも綴られているので、そちらも必見。著者の想いに触れ、再度、本作を読み直すと、1度目とはまた違ったおもしろさが得られるだろう。

 情景描写が丁寧で、摩訶不思議な戦国時代を冒険しているような感覚になる本作は歴史マニアやホラー小説ファンはもちろん、読み応えのある作品に触れたい時にもおすすめだ。史実とは違う、もうひとつの戦国時代をぜひ、満喫してほしい。

文=古川諭香

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