30年後、日本は終焉する!? 経済小説のトップランナーが怒りと憂いを込めて描き出す衝撃の「未来予想小説」

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/27

限界国家
限界国家』(楡周平/双葉社)

 日本社会はこれからどう変化していくのだろう。たとえば、30年後、日本という国はどうなっているのか。老いも若きも男も女も、この国がこのままだとどういう運命を辿るのか、今、考えてみた方がいい。なぜならそれは、あなたにとっても、決して他人事では済まされないことだからだ。

 未来の日本の姿について考える一助になる本がある。それは『限界国家』(楡周平/双葉社)。経済小説・企業小説のトップランナーが確かな予測でこれからの日本を描き出す「未来予測小説」だ。

 舞台は、世界最大級のとあるコンサルティング会社。この会社に、あるクライアントから一風変わった依頼が舞い込んできた。それは、「20年、30年後の日本社会に何が起こるのか」を調査してほしいというもの。あまりに漠然としたテーマに困惑しつつも、入社15年目のコンサルタント・津山百合は、若手社員・神部恒明とともに調査を開始する。

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 現在、絶好調な企業や産業にしたって、新技術が現れた途端、あっという間に廃れてしまう時代。「20年、30年後の日本」を予想するなんて不可能だと、誰もが思うだろう。津山や神部も最初はそう思っていた。だが、精度が高いと定評のある厚生労働省の人口動態統計をベースに考察するだけでも、この先、日本がどんな問題に直面するかが見えてくる。たとえば、人口動態統計では、2040年から50年の間に、日本の人口は1億人を割り込むと推計されている。内需依存の経済が成り立つには1億人の人口が必要と言われているから、内需依存の時代は、2040年代で終わりを告げるのだ。今でも日本のGDPの6割は内需に依存しており、このままだと日本経済が立ち行かなくなるだろう。今の日本にその備えはできているのだろうか。

 今まで通りの経済を維持するためには、出生率を大幅に引き上げる必要があるが、それにも限度があるだろうから、移民を受け入れなくてはならない。だが、大量の移民を受け入れたとして、彼らの雇用基盤はどうなるのか。それに、言語、文化、生活習慣が異なる移民を大量に迎え入れれば、さまざまな問題が発生する。最初はマイノリティでも、ネイティブ・ジャパニーズの人口が減少し続ければ、移民がマジョリティになってしまう可能性だってある。日本の伝統、文化、風習はどうなってしまうのか。津山たちは、霞ヶ関の元キャリア官僚たちにも話を聞くが、日本の未来は、到底明るいものとは思えない。

 この本を読むまで、日本がこんなにも危機的な状況にあるなんて知らなかった。高齢化や少子化が、国家にこんな事態を招くとは、想像できていなかった。それも、自分の将来を考えながら読み進めると、絶望せずにはいられない。たとえば、今、私は34歳だから、30年後は、64歳。これからの仕事はAIにより「人間は不要」になるらしいが、いつまで働くことができるだろうか。地方の過疎化は深刻で、都心部への人口はますます増え続けるようだが、住まいはどうなるのか。介護の需要は増すばかりだが、少子化で人手不足。大量の移民を受け入れて彼らに任せるにしたって、彼らが日本語を話せるとは限らないし、介護される側だって、英語さえ怪しい。公的資金を入れて解決しようにも財源はどこから出てくるのか……。

 津山や神部が頭を抱えるのと同様、私たちも、次から次へと明らかになる日本の問題に目眩がしてくる。と同時に、怒りも湧いてくる。もう手遅れではないのか。どうして、政治家たちはこんな状況になるまで問題を放置してきたのだろうか。

 今の日本にはあらゆる問題が山積している。そして、このまま進めば決して未来は明るいものではなさそうだ。だが、意外にも、この本の読後感は清々しい。それは、しっかりと自分の考えを持ち、これからの時代を切り開いていこうとする若い世代の力を感じることができるからだろう。私たちもひとりひとりが考えなければならない。これからを生き抜くために必要なことは、自分の力で考え抜くこと以外にないだろう。そんなことを思わされるこの本を読んで、将来の日本のありかたについて、そして、そこで暮らす自分について、今一度、思いをめぐらせてほしい。

文=アサトーミナミ

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