京都人的コミュニケーションから学ぶ“毒の吐き方”で、人間関係のお悩みを解消!

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公開日:2023/7/14

エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術
エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(中野信子/日経BP)

「楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」という慣用句もある通り、人生が常に楽しく大丈夫だということは有り得ません。心持ちについても、常にポジティブであればそれに越したことはありませんがそうはいかず、誰もが悩みや苦しみの感情を多かれ少なかれ抱きます。『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(中野信子/日経BP)は、京都人のコミュニケーションに魅せられた東京出身の中野信子氏が、自身の専門領域である脳科学と京都人から得た学びをかけあわせて、「楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」の波とうまく付き合っていくアプローチを読者に提案してくれる一冊です。

 京都は日本の歴史においてながらく「中心地」であり続けてきました。それゆえに戦乱の中心地になってしまうことも多く、権力のダイナミズムに影響を受けやすかった京都人たちは、「次に誰が権力を持つかわからない」という前提を共有していたといいます。そして自ずと「なるべく敵をつくらず、他者と仲良くしすぎない」というメンタリティが形成されてきました。この言葉から、ママ友やご近所づきあいのことを連想する人も多いのではないでしょうか。実際、相手を傷つけたり関係を壊したりまではしない形で、「言いにくい」と躊躇せずにスッと毒を吐く京都人式のコミュニケーションは、日常レベルの悩みごと、困りごとを解消できるポテンシャルがあると著者は主張しています。

 京都人の特徴を表す最も代表的な言葉の一つは、意地悪を意味する「イケズ」です。例えば、落語由来で有名になったエピソードで、京都人の家に行った際に「まだいいじゃないですか、ぶぶ漬け(お茶漬け)でも召し上がってください」と言われたら「帰ってほしい」という嫌味なので、言葉を真に受けてはいけないというものがあります。これはいわゆる都市伝説で実際にそんなふうに言われることはないそうですが、それでもやはり京都人は「困った」「イヤだ」ということを婉曲的に伝えるための一手を多く持ち合わせていると、著者は明らかにしていきます。

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 本書には著者の脳科学者としての知見もまじえた上で、今すぐうまく毒を吐くことができるキラーフレーズや方法論が紹介されていますが、最もシンプルですぐ実践できるものの一つが「オウム返し」です。

「子どもいないの?」というややデリケートな質問には、一拍おいて「……『子どもいないの?』っておっしゃいました?」などと聞き返す。
 あたかも、尊敬するあなたがそんな質問をしてくるなんて!という体で、びっくりしたようにオウム返ししていきましょう。そして、返事はここで止めておいて、あとはじっくり、本人の中で毒が効いてくるのを待つのです。

 このように、考えさせる余韻を持たせて本音をはっきり言わないがゆえに、「京都人は何を考えているかわからない」と評されることもあります。著者は、脳科学の見地から言うと、より「人間味」があるし重宝もされるのは、はっきり物事を言って「論破」することが正義だというスタンスではないと主張しています。短期的な人間関係を前提として、包み隠さず白黒をハッキリさせるのではなく、中長期的な人間関係を視座に入れて互恵関係(いわゆるWin-Win関係)を志向するということです。

自分から見た相手の弱点をうまく使いながら、傷つけない言い方を駆使して、しかも自分の心も殺さず、本音は小出しに隠しておいて関係を保つ、というやり方はたしかに、何の鍛錬もなしにすぐ使えるものではありませんが、使うことがもし可能ならば、その人は世界のどこに行っても通用するし、出世も期待できるだろうなと思うのです。

 人を蔑んだりストレス解消したりすることを意図していない「毒の吐き方」を知ることで、今までにはない心の平静の保ち方、ひいては幸せの見つけ方の選択肢がグッと増えるのではないでしょうか。

文=神保慶政

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