子どものことは子どもと大人でいっしょに決める。すべての子どもと、子どもに関わる大人を守る「子どもの権利」を絵本で知る!

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/28

ようこそ こどものけんりのほん
ようこそ こどものけんりのほん』(えがしらみちこ:絵、子どもの権利・きもちプロジェクト:文/白泉社)

 すべての子どもや若者が将来にわたって幸せな生活ができる社会を実現するために、「こども基本法」が4月1日から施行されたのをご存じだろうか? 日本は1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」を1994年に批准はしたものの、長く法律としては未整備のままでいたことが国際社会からも問題視されていたという。そんな中、やっと成立したのがこの法律。つまり日本社会として「子どもの権利」に意識を向けるのは、まだスタートラインに立ったばかりの状況といえるのだ。

 とはいえ、いきなり「子どもの権利」と言われてもピンとこない方も多いかもしれない。「こども基本法」自体は管轄するこども家庭庁で積極的にPR活動を行っているが、そもそも根底にある「子どもの権利」自体がよくわからない…そんなときは、あたたかいイラストで「子どもの権利」についてやさしく教えてくれる『ようこそ こどものけんりのほん』(えがしらみちこ:絵、子どもの権利・きもちプロジェクト:文/白泉社)を手にとってはどうだろう。「絵本」なのでわかりやすさは抜群で、親子で楽しみながら「子どもの権利」について知ることができてしまう一冊だ。

せかいじゅうの どんな こどもにも「にんげんらしく いきる けんり」がある。
これは せかいじゅうの おとなが こどもたちとした たいせつな やくそく。
あなたも もっている あたりまえの「けんり」なんだ。

ようこそ こどものけんりのほん p.2~3

 本書ではこのように「権利」を「子どもたちと世界中の大人との約束」と定義している。その上で、「こころも からだも あんしんして くらせる」「どんなときも けっして たたかれたり どなられたり しない。 そうされないように まもってもらう けんりが ある」のように、子どもたちに「人間らしく生きる」ためにもともと備わっている「権利」、すなわち「人権」をあげていくのだ。いずれも言葉にすると「それはそうだよな」という納得感のあるものばかりなのだが、今まで無自覚だった分、大人のほうがドキッとさせられるのではないだろうか。

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ようこそ こどものけんりのほん p.4~5

ようこそ こどものけんりのほん p.12~13

 中でも大人が肝に銘じなければいけないこととしては、「あなたのことを きめるとき、おとなだけで かってに きめないで あなたのきぼうを きいてもらう けんりが ある」というのがある。大人の立場からすれば「何事も子どもの気持ちをしっかりくまなければいけない」ことになるわけだが、昨今、話題になっている「シェアレンティング」(SNSなどインターネットで子どもに関する情報を公開すること)の是非などにも、こうした観点は大いに関係してくるだろう。

 なお、こと親子関係においては、「なんでも子どもの「けんり」を優先するのは「わがまま」につながるのでは?」と思われる方もいるかもしれない。そのあたり本書では「なんでも言ってよいけれど、『ぜんぶ、あなたのきぼうどおりになる』ということではありません」と釘をさす。その上で大事なのは「一緒に話し合うこと」であり、子どもにとって「いちばんいいことはなにか?」を考えることだと伝えるのだ。このように、あくまでも子ども目線でつくられた本ではあるが、大人としては先に気がつき、考えておきたいことがいろいろありそうだ。

 本書は子育て情報誌『kodomoe』(白泉社)の付録がベース。読者から寄せられた声をもとに内容もブラッシュアップし、カバーの裏面はポスターになっているなど、より伝わりやすくわかりやすく改変された一冊だ。まだまだ日本では「子どもの権利」という言葉自体を知らない人が大半であり、そんな現実を少しでも変えていくためにも、本書が大きな「はじめの一歩」になるのは間違いないだろう。

文=荒井理恵

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