【福原遥&水上恒司で映画化】孤独な少女と特攻隊員の運命の出会い… 号泣必至の感動の物語

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/30

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。(スターツ出版文庫)』(汐見夏衛/スターツ出版)

 孤独な少女と死を決意した特攻隊員の物語が、今、中高生を中心に大きな話題を呼んでいる。その作品とは『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。(スターツ出版文庫)』(汐見夏衛/スターツ出版)。「泣ける」とTikTokで大バズりし、シリーズ累計発行部数は50万部を突破。福原遥と水上恒司のW主演で映画化も決定しているという注目作だ。

 一体、何がここまで中高生たちの心を惹きつけるのだろうか。それは、この物語があまりにも切ない悲恋を描き出しているからだろう。それも感情移入せずにはいられないのだ。描かれるのは、戦時下の日本。平和になれきった私たちにとって、戦争は、どこか遠い時代の出来事のように思えてしまうが、教科書をいくらなぞっても分からなかった悲しみや痛み。その残酷さや不条理さを、痛いほどに教えてくれる。

 主人公は、親や学校、すべてのことにイライラしている中学2年生の少女・百合。彼女は、ある日、母親とケンカして家を飛び出し、目をさますと1945年6月、終戦間近の日本にタイムスリップしていた。スマホも圏外だし、食べるものもない。体調不良で動けなくなってしまった百合を助けてくれたのは、彰という青年。彼に案内された食堂で生活する中で、百合は、彰の優しさに強く惹きつけられていく。だが、彰は特攻隊員。ほどなく命を賭して戦地に飛ぶ運命だった。

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 どうして大切な人たちが死ななくてはならないのか。どうしてお国のために死ぬことが栄華とされているのか。自分の命を犠牲にすることの何が誇らしいことなのか。戦時下の人たちはどんなに理不尽な目に遭っても、「仕方がない」で済ませてしまうが、百合は、すべてのことに強い憤りを感じる。それと同じように、私たちも戦争のすべてに疑問を持つ。こんなにも戦争を、自分のことのように考えたのは初めてかもしれない。こんな理不尽な時代を、生き抜いた人たちがいたのか。そう思えば思うほど、やるせない気持ちになってしまう。

 そして、何よりも、百合と彰の姿を見るにつれて、たまらなく胸が締め付けられる。彰は特攻隊員として「大事な人たちのために往く」という決意を固めている。「たとえ勝算が皆無だとしても、万にひとつの可能性に賭けて出撃する」のだと言う。だが、百合は思うのだ。「彰が死んでしまったら意味がない」と。百合は彰に何とか思いとどまってほしいと思うが、彰の決意は変わらない。しかし、本当は彰だって揺れ動いている。出来ることならずっと百合のそばにいたい。だけれども、生きたくても、死ななければならない。「こんな時代でなければ」「戦争などなければ」「自分が兵士でなければ」……。どれほど歯がゆく思い、どれほど複雑な思いを胸に抱えていることか。強く惹かれ合いながらも、時代がそれを許さない。そんな2人の姿にどうして涙せずにいられるだろうか。

 物語に出てくる特攻隊員たちは、みんな20代前後。彰は元々大学生だったというし、他の人間だって、戦争さえなければ、ごく普通の暮らしを送っていたはずだ。前途ある若者たちの命が、どうしてこんなにも簡単に奪われなくてはいけないのか。この物語を読み、大切な人の命を奪われることの悲痛を感じるにつれて、戦争は二度と起こしてはならないと改めて実感させられる。この本には、続編となる『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。(スターツ出版文庫)』(汐見夏衛/スターツ出版)という作品もあるから、あわせて読んでおきたい。このシリーズに描かれているのは、日本人として忘れてはいけない戦争の記憶。世界で紛争が絶えない今だからこそ、読むべきだろう。何度も何度も読み返して、ずっと大切にし続けたい物語だ。

文=アサトーミナミ

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

出演:福原遥、水上恒司、伊藤健太郎、嶋崎斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希、中嶋朋子、坪倉由幸/松坂慶子
原作:『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(汐見夏衛/スターツ出版文庫)
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大、成田洋一
配給:松竹 12月8日(金)全国公開
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/

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