いじめ、レイプ、殺人…凶悪犯に容赦ない制裁を! 踏み倒された賠償金や、命すら賠償させる裏組織「東京ゼロ地裁」

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/16

東京ゼロ地裁 執行 1
東京ゼロ地裁 執行 1』(小倉日向/双葉社)

 殺人や性犯罪など、誰かを平気で傷つける凶悪犯罪を起こしたのに「量刑」が軽すぎるのではないか…審議をつくし、公正な判断が下されたはずの裁判結果に、時として納得がいかないと感じることはないだろうか。第三者の心象がそうならば、おそらく被害者やその関係者の心中は穏やかではないだろう。数年後、また犯人が外に出てくるのか――たとえば逆恨みを恐れて、恐怖におののく人もいるであろうことは容易に想像がつく。

 こうした悩ましい状況に、ガツンと鉄槌を食らわせるようなエンタメ小説が登場した。このほど第1作が登場した小倉日向さんの文庫書き下ろし新シリーズ『東京ゼロ地裁 執行 1』(双葉社)だ。小倉さんといえば衝撃のデビュー作『極刑』や『いっそこの手で殺せたら』(いずれも双葉社)でも凶悪犯への「私刑」をテーマにしているが、最新シリーズにはそれをさらに先鋭化させた「組織」が登場する。それがシリーズタイトルにもなっている「東京ゼロ地裁」だ。

 東京ゼロ地裁とは、霞が関の東京地裁直下の地下深くに存在するとされる秘密組織だ。犯罪被害者や遺族を救済するため、被害者側が民事訴訟でなんとか勝ち取った賠償金を平気で踏み倒す悪党から、金や財産を極限まで毟り取り、本来うけるべき人々に渡すべく組織されたものという。その際の手段や方法は問わず、被害者の苦しみを身をもってわからせるため、加害者が犯した悪事をそのまま、あるいは100万倍にもしてお返しするというから頼もしい…というか、ちょっと恐ろしい。娘ふたりを溺愛する良き家庭人である東京地裁民事部の判事・山代忠雄をボス(裁判長)に、熱血執行官・谷地修一郎、府中刑務所のベテラン刑務官の立花藤太が暗躍。歌舞伎町の凄腕美人女医・美鈴の力も借りて、次々に悪党に「真」の裁きを下すのだ。

advertisement

 シリーズ第1作となる本書で裁かれるのは、同級生の少女をブスと罵り、人前で自慰行為を強要してその姿を撮影し、さらにはその場に呼んだ少年にレイプをさせるという凄惨な「いじめ」の主犯格である北野倫華(のちにその同級生は自殺。本人は傍観していただけだと関与を認めず、民事の賠償金も未払い)、水商売の女性たちに薬を飲ませてレイプし、それを撮影した動画をバラ撒くと脅してなきことにするという性犯罪を繰り返していた五嶋幸造(2年ちょっとの懲役で賠償金も払う気なし。五嶋の出所が迫る中、被害者の一人は苦悩から自殺)。そして20代の若い妊婦をレイプしようとして抵抗され、お腹の赤ちゃんもろともメッタ刺しにして殺した杉本和也だ(事件当時19歳だったため、懲役13年で刑が確定。「殺人」に興奮する性癖のため、出所後はまた殺人を目論む)。いずれもどうしようもない「悪党」ばかりだが、そんな彼らを真に反省させるために東京ゼロ地裁はどのような判決を下すのか――それがこの物語の最大の山場。時に「命」すら賠償させる過激さには驚愕するが、エンタメ小説としてギリギリを攻める感じにハマり、最後まで一気読み必至だ。

 それにしても、現実には東京ゼロ地裁のような組織が「ない」ことはあっても、こうした凶悪犯が「いる」ことはあるのが恐ろしいところ。彼らに本当の贖罪を求めるにはどうしたらいいのだろう――鬼の裁判官たちの暗躍を楽しみながらも、ふと考えてしまう一冊だ。

文=荒井理恵

あわせて読みたい