「健康のために痩せなさい」は本当か? お腹まわりが気になり始めたら知っておきたい小太りのススメ

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公開日:2023/9/26

50歳を過ぎたらダイエットしてはいけない
50歳を過ぎたらダイエットしてはいけない メタボの嘘と肥満パラドックスの真実』(灰本元/文藝春秋)

 病気が増えてくる30~40代の働き盛り世代にとって関心があるのが、「メタボ」や「中年太り」の問題だろう。そんな健康診断の腹囲測定やせり出してきたお腹が気になり始めるお年頃の人々を驚かせるのが、本書『50歳を過ぎたらダイエットしてはいけない メタボの嘘と肥満パラドックスの真実』(灰本元/文藝春秋)だ。

 著者は、愛知県春日井市のクリニックで内科医として診察にあたりながら、「食と病気」について研究、発信を行っている灰本元氏。高血圧や糖尿病といった生活習慣病や、消化器疾患、心血管障害、呼吸器疾患など幅広い病気を診療するほか、年間70~100人の癌の発見など、豊富な臨床経験を持つ。

 本書では、世界中の医学の研究結果を基に、「健康に関して、痩せるのは善、肥満は悪」という常識を覆す「肥満パラドックス」の考え方を伝えている。肥満パラドックスとは近年の研究データが示す「痩せている人よりも、小太りの人のほうが死亡リスクが低い」という逆説のこと。過度な肥満は避けるべきという前提のもと、メタボリックシンドロームや、あらゆる病気と肥満度の関係、年齢別の理想的な体型などの観点から、「50代を超えたら痩せるのではなく、小太りが良い」理由を伝えている。

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「太っていると病気になる」「年齢を重ねてもスリムなほうが健康」と思っていた人にとっては、目を疑うような言葉の連続だ。たとえば、痩せている人はメタボが原因の病気にはなりにくいけれども、日本人に多い癌や肺炎で早死にするリスクが高いこと。肺気腫などの呼吸器疾患だけでなく、心筋梗塞や心不全、糖尿病などにおいても、小太りは死亡リスクが低いこと。著者は、肥満大国のアメリカで生まれたメタボリックシンドロームを、やせ型が多い日本人が気にしすぎることのリスクも指摘。40代以降は、男性でBMI23.0~29.9、女性でBMI21.0~26.9という、中肉中背からやや小太りの体型が理想的だと結論づけている。歳をとってから痩せると危険で、もともと痩せている人は、加齢に従って少しずつ太るのが病気と共存しつつ人生を豊かに生きるコツだと語る。

 命を脅かすような病気においては、脂肪があるほうが有利だと数字が証明しているものの、なぜ脂肪が生存にポジティブな影響を与えるのかは詳しくはわかっていないという。しかし、多くの研究結果と、人種や国民病の違いなどの条件を組み合わせて導いた著者の考察が、読者の固定観念を解きほぐすのに十分な説得力を生んでいる。

「50代を過ぎたら太るべき」という考え方に慎重な人も、痩せていると消耗戦となる癌の治療で生き延びるのが難しいことや、何かしらの病気と戦う中年以降は食べる力と体力がある小太りが強いという主張は、わかりやすいのではないだろうか。本書では、患者が「痩せているほうが健康」という考えにこだわるあまり治療がうまくいかなかったケースも紹介されており、著者の思いが切実に伝わってくる。数字を重視した内容ではあるものの、「腹囲85cm」などの基準値や定量的な健康指導に縛られることなく、情報を読み取り、賢く自分の健康に向き合うことの大切さを教えてくれる一冊だ。

文=川辺美希

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