連続殺人犯といっしょに乙女ゲームの中に転生。女刑事は、イケメンたちに紛れる連続殺人犯を見つけられるのか？

　乙女ゲームの世界へ転生する、異世界転生もの。これの醍醐味は、やはり主人公にとって勝手知ったるゲームの世界で、推しを含めたイケメンたちに愛されて幸せを掴んでいくという展開だろう。悪役令嬢ものにしても追放ものにしても、そうした要素は必ずと言っていいほどセットになっている。だが、もしその攻略対象となるイケメンの中に凶悪犯が潜んでいたら――？

『女刑事と犯人の乙女ゲー転生 ～目標は攻略対象の中～』（紗与イチ/少年画報社）は、ある凶悪犯とともに乙女ゲームの世界に転生してしまった女性警察官の、犯人捜し系異世界転生サスペンス！　今年2023年3月に第1巻が刊行されており、10月23日には第2巻も発売される予定だ。

　本作品の主人公は、30代の女性警察官・儀藤ありさ。儀藤は警察官として日々の職務を全うしていたが、あるとき「儀藤ありさのファン」と名乗る謎の連続殺人犯が現れる。そして後輩の男性警察官・黒良を人質として捕え、殺そうとした。それを目撃した儀藤は、相打ちで犯人とともにビルから転落したはずだった……。しかし気がつくと「ディバイン・ナイト」という乙女ゲームの世界に、主人公アリス・ローズベリーとして転生していて――!?

　――と、ここまでならよくある乙女ゲーム転生ものだが、この物語はここから様子がおかしくなっていく。まず、助けたはずの黒良（男）が、なぜかルームメイトのポージー・リッチモンドという女の子として転生。

　そしてさらに、攻略対象となっている4人のイケメン男子のうち1人は「儀藤ありさのファン」なのだという。儀藤は死に際に現れた女神によって、アリスとして全寮制学園「ロイヤル・マーレイ」で生活しながら「儀藤ありさのファン」を割り出し追放する、というミッションを課せられたのだ。ここから、元黒良であるポージーと2人での犯人捜しがスタートする。

　前世で真面目で優秀な警察官だった儀藤は、周囲への気配りや推理力は長けているが、「乙女ゲーム」というものをまったく知らない。一方黒良は、実は「ディバイン・ナイト」の大ファン。しかもポージーは彼の最推しキャラ。儀藤は黒良のポージーを満喫している様子に、黒良は儀藤の王道イベントやキャラクターをガン無視して動く様子に困惑しながらも、足りない部分を補い合いながら次第に犯人へと迫っていく。

　儀藤にとっての転生後の状況は、見知らぬ異世界で、やったこともない乙女ゲームの主人公として連続殺人犯を探さなければならないシビアな状況。また黒良は黒良で、あるルートに入るとその段階でポージー、つまり黒良の死が確定してしまう事実を知っている。そんな状況下にあるにもかかわらず、2人とも上記のように良くも悪くもマイペースに、時にドタバタを巻き起こしながら過ごしていく。これが数々の危険を乗り越えてきた警察官の余裕というものなのか――。特に、転生前は真面目な堅物オーラを出していた黒良の生き生きとした豹変っぷりには、ぜひとも注目してほしい。

　また、ゲームの攻略対象である個性的なイケメン4人が抱える闇も気になるポイントだ。

　この設定がどう生きて、どう動いていくのか。「儀藤ありさのファン」の確定と追放にどう関わってくるのか。ルートの分岐はどうなるのか。まだまだ気になること尽くしだ。儀藤と黒良は無事生き残り、「儀藤ありさのファン」の追放にたどり着けるのだろうか？　2人がどんな推理を見せてくれるのか、引き続き注目したい。

文＝月乃雫