女性ホルモンに守られていた生活習慣病が閉経後に発症? 産婦人科医でスポーツドクターでもある著者の、心と体の向き合い方

暮らし

公開日:2023/10/24

娘と話す、からだ・こころ・性のこと
娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(高尾美穂/朝日新聞出版)

 子どもを持つ親なら誰でも戸惑うことがある性の話。いつどうやって話せばいいか、自信を持って取り組める人は少ないのではないでしょうか? 特に女の子の場合生理やそれにまつわるトラブルも多く、問題はさらに複雑に感じます。

娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(高尾美穂/朝日新聞出版)はそんな娘を持つ母に向けた一冊。著者である高尾美穂氏は産婦人科医であり、スポーツドクターとして多くのアスリートの体と向き合ってきました。そんな著者ならではの視点から、子どもへの性教育、娘がトラブルに直面したときの支え方など、いざという時のために知っておきたい情報が盛りだくさんの本書。同じく女性である自分自身の体との向き合い方も改めて見直すきっかけになる一冊です。

 本書では、女性の体にとって大きな変化の時期=女性ホルモンが大きく変動する時期を思春期と更年期、そして子どもを産んだ場合は産後であるとしてそれぞれのホルモンの変化を詳しく説明。それに伴う体と心の変化を紹介します。

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 まず思春期について、生理をどのタイミングでどう解説すれば良いか具体的に解説。その上で月経カップやピルなど、近年の技術によって生まれたグッズや薬を紹介します。親世代にとってピルは避妊に使うイメージが強いかもしれませ。しかし、月経困難症=生理中に起きるトラブルを軽減するためにも使われるものなのです。月経困難症はつい我慢してしまう人が多いですが、例えば生理痛軽減のためにピルを使うことは、子宮内膜症の予防にも繋がるそう。ピル処方が目的でなくとも、重い生理痛や生理前だけ不調になるPMSなどで辛い時は我慢せず、病院で相談することを本書は勧めています。

 またこの年齢の子どもにもう一つ伝えるべきなのが、性交渉や避妊について。これらのテーマをどのようなタイミングで伝えるかは特に難しいところ。しかししっかり伝えることは望まない妊娠だけでなく、性病や性被害を防ぐことにも繋がります。コンドームはWHO(世界保健機関)では“受動的な避妊”として望ましい避妊方法とはされていないなど、親世代にとっても勉強になる内容が掲載されていました。

 次のテーマは更年期について。更年期とは閉経のタイミングから前後5年のこと。女性が不調を感じやすい時期というイメージがありますが、この時期すべての女性が不調を感じるわけではありません。この時期の不調、いわゆる「更年期症状」は全女性の6割、治療なしでは生活に支障が出る「更年期障害」は3割弱が経験するものだそうです。そしてこの時期の女性はつい子どもや家族のことばかり考えて、自分の体をおろそかにしてしまいがち。しかし子どもと良い関係を築くには、子どもの挙動に逐一目を光らせるよりも、親自身が人生を楽しんでいる姿を見せることが大切な時もあります。そして自分の人生を楽しむために欠かせないのが、心身の健康。特に女性の場合、女性ホルモンによって体が守られ発症しなかった生活習慣病のきざしが、閉経後目立ち始めることも。その予防のためにも、40代になったら良い生活習慣を身につけておくことを本書はおすすめしています。

 そして子どもを産んだ場合、特に不調が目立つのが産後。この時期はエストロゲンとプロゲステロンというホルモンが急激に減ることで、抗うつ作用と抗不安作用が弱くなり、マタニティブルーや産後うつを引き起こす原因になります。本書ではこのメカニズムを含めた妊娠に関する知識を詳細に解説。知っておけば、いざ自分や娘の体に不調が現れたときに冷静に対処することができそうです。

 その他、妊活やルッキズムなど、さまざまなテーマについて触れている本書。その中で本書が一貫して伝えているのは、子どもと対話する上で大切なのは「多くの知識を伝えることで選択肢を増やし、最終的には子ども自身に決めてもらうこと」。そして生理痛やつわりなど女性のトラブルは個人差がとても大きいものなので、「自分の経験を当てはめず相手の意見を尊重すること」。このふたつを踏まえて娘と、そして自分の体と向き合うことは母娘の関係を、そしてお互いの人生を高めていくことに繋がると感じた一冊でした。

文=原智香

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