黒柳徹子、42年ぶり『トットちゃん』続編が発売。夜行列車で知らない大人に挟まれ1人で青森県へ向かうシーンから始まる物語

文芸・カルチャー

更新日:2023/12/1

続 窓ぎわのトットちゃん
続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子/講談社)

 1981年に刊行されベストセラーとなった『窓ぎわのトットちゃん』の続編が、なんと42年の時を経た2023年に『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子/講談社)として刊行された。続編を期待されながら「よし! と思うまで、なんと四十二年もかかってしまった」と著者の黒柳徹子さんが本書冒頭に書いているが、『窓ぎわのトットちゃん』が刊行された当時、主人公のトットちゃんと同じ年代だった小学生が現在40代後半~50代半ばになっていることを考えれば、その時間の長さがわかるだろう。

『窓ぎわのトットちゃん』は小学1年生で学校を退学となったトットちゃん(黒柳さん)が、母親と一緒に自由が丘にあったトモエ学園へ向かう場面から始まる。トットちゃんは「君は、本当は、いい子なんだよ!」と校長先生である小林宗作先生に励まされて学園生活を楽しんでいたが、太平洋戦争が始まり、空襲でトモエ学園が焼けてしまう。その空襲とちょうど同じ頃、疎開するため東北へ向かう汽車にトットちゃんがひとりで乗っている場面で終わっていた。『続 窓ぎわのトットちゃん』はその時期よりちょっと前の話から始まり、疎開先へ向かう夜行列車で知らない大人に挟まれて席に座り、ひとりぼっちで青森県へ向かうところから続く話が書かれている。

 本書刊行に際して開かれた記者会見で、黒柳さんはいつも「戦争のときは嫌だったな」と考えていると話し、「(ロシアによる)ウクライナへの(軍事)侵攻があったことが、もしかするとこの本を書こうと思ったきっかけかもしれないと思います」「子供にとって何が一番嫌かといえば、やっぱり自由じゃないっていうことだと思うんですね」と続編執筆の経緯について語っていた。

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『続 窓ぎわのトットちゃん』には「君は、本当は、いい子なんだよ!」と言われて育ったトットちゃんが、時に誤解され、失敗しながらも「そのままでいてください」「だいじょうぶ!」と周りから勇気づけられ、戦争中青森に疎開し、戦後帰京して、やがてNHKの専属俳優となり、テレビ草創期のめまぐるしい日々と、そこから一旦離れてニューヨークへ行くまでの出来事が収められている。

 黒柳さんは記者会見で本書の内容について「つまんなくはないとは思うんですけども」と会場の笑いを誘いつつ、執筆して改めて「私はなんて変わらない人間なんだろう」ということがわかったと話していた。それは『窓ぎわのトットちゃん』と『続 窓ぎわのトットちゃん』を通して読むととてもよくわかるので、できたら『窓ぎわのトットちゃん』から順に読んでもらいたい(なぜタイトルに「窓ぎわ」とつけたのかは『窓ぎわのトットちゃん』のあとがきに書かれているので、気になった方はぜひ)。個人的にはトットちゃんが仲良くしていたものの、途中で行方がわからなくなっていた愛犬ロッキーの運命が『続 窓ぎわのトットちゃん』で明らかになったことに心を揺さぶられた。

 ちなみに『窓ぎわのトットちゃん』を装丁したのはイラストレーター、グラフィックデザイナー、エッセイスト、映画監督であった和田誠さん、そして『続 窓ぎわのトットちゃん』は装丁家、グラフィックデザイナーである名久井直子さんだ。使われている絵はどちらもいわさきちひろさんによるものなので、名手であるお二人のブックデザインへのアプローチの違いや、仕事の丁寧さを味わうのも楽しい(『続 窓ぎわのトットちゃん』にはロッキーであろう犬の絵もあるので、探してみてください)。

『窓ぎわのトットちゃん』『続 窓ぎわのトットちゃん』を貫くテーマであり、あとがきにもしたためられた戦争反対のメッセージは、不安な時代に生きる今の私たちの心に響いてくる内容であった。これまでも、そしてこれからもずっと、トットちゃんは愛され続けていくことだろう。

文=成田全(ナリタタモツ)

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