NYが舞台の「まほよめ」スピンオフ! 人ではないバディが怪事件に挑む『魔法使いの嫁 詩篇.75 稲妻ジャックと妖精事件』

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/26

魔法使いの嫁
魔法使いの嫁 詩篇.75 稲妻ジャックと妖精事件』(竹田ダニエル/講談社)

 稲妻ジャックは電光石火。とっても“イカした”探偵だ――。人間の世界で成長した妖精のジャック、元は人間で妖精の国で育ったラリー。この“異類”の姉と弟が怪事件に立ち向かう物語が『魔法使いの嫁 詩篇.75 稲妻ジャックと妖精事件』(オイカワマコ:漫画、五代ゆう:原作、ヤマザキコレ:監修/マッグガーデン)だ。

 本作はTVアニメのSEASON2が放送中で、シリーズ累計1000万部以上の大ヒットファンタジーコミック『魔法使いの嫁』(ヤマザキコレ/マッグガーデン)を“原典”としたスピンオフ。『小説 魔法使いの嫁 金糸篇』(マッグガーデン)に収録されている、五代ゆう氏が書きおろした「稲妻ジャックと虹の卵」の設定をもとにしたコミカライズ作品である。

「異類婚姻幻想譚」と称する『魔法使いの嫁』に対して、こちらは言ってみれば「異類バディ冒険譚」。米国・紐育(ニューヨーク)で起こる「“稲妻”ジャック探偵事務所」に持ち込まれるのは、魔法や魔術が絡み、妖精や精霊、そして竜といった人ならざるものたちが起こす怪事件である。今日もふたりは“稲妻”のように素早く、あちら側とこちら側の間を動き回って事件を解決していく。

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存在も居場所も曖昧なチェンジリングたちの事件簿

 ジャックは人間の世界で育った妖精である。しかしそんなことを知らずに育った彼女は、ティーンエイジャーになると同世代の人間の子どもたちと同じような想像にひたっていた。それは「私には本当の姿があって、元の世界に帰りさえすれば、さえない自分におさらばする」というものである。

 ジャックの想像は現実であった。ある日、半分狼で半分人間のラリーが彼女の家の窓を叩いてやってきたのだ。彼は自分とジャックが何者であるかを告げる。

 ジャックとラリーは、「取り換え子(チェンジリング)」だったのだ。

「チェンジリング」とは、妖精によって人間の子どもと妖精の子どもが取り換えられて、それぞれ別の世界で育つ者たちのことだ。取り換えられた彼らは双子のきょうだいのような間柄である。

 ラリーに誘われて妖精の国に行ったジャックだったが、期待していた別世界は楽しい場所ではなかった。妖精たちは彼女を特に歓迎もしてくれなかったのだ。何より彼女は妖精であっても、人間の流儀や生き方しか分からないのだと気づく。人間ではなく、普通の妖精でもないジャック。人間だったラリーもすでに半分狼だ。彼らの居場所はどちらの世界なのか、曖昧だ。

 ジャックは「何かにならないといけない」と決意した。そこで思いついたのがヒーローだった。大人になった彼女はラリーとともに「“稲妻”ジャック探偵事務所」を開く。「チェンジリング」であるふたりは、自分たちがどっちつかずの存在であることを利用する。人間と“人ならざるもの”の間に入り、あちら側とこちら側にかかわる事件を解決していくのだ。

竜の守護者「白花の歌」の依頼は虹の卵探し

 ジャックとラリーは、仕事を取り次ぐ魔術師・デイルから新たな依頼を受ける。依頼主はアイスランドで竜を守護する“白花の歌(エコーズ)”こと、魔法使い・リンデルだ。彼は『魔法使いの嫁』のメインキャラ・エリアスの師匠である。なお本作には彼の他にも、謎のキャラクター「灰の目」や「学院(カレッジ)」の関係者が登場する。ファンなら「おおっ」となるだろう。

 リンデルの依頼とは、米国に持ち去られた竜の卵を見つけてほしいというものだった。ジャックは魔力を持つ者しかアクセスできないインターネットネットワークと自身の魔法で「ウォール街の大物であるリチャード・ディーフェンベイカーが、ブロードウェイ女優の卵であるローラに入れあげている」という情報に行きつく。このディーフェンベイカーがジェフリーというチンピラから入手し、彼女に贈ろうとしていた虹色に輝く宝石こそ、竜の卵だったのだ。

 ふたりはローラのもとへ向かう。彼女は怪しい男たちが取り囲む小さな劇場に軟禁されていた。ジャックの魔法とラリーの狼に変身できる能力を武器に乗り込んでいく――。

 意外な人間関係や、事件の黒幕などが徐々に明らかになるストーリー展開は、飽きさせない。はたして竜の卵は無事に取り戻せるのか? そして事件の先にジャックが得るものは?

 物語は現在、新編が漫画サイト「MAGCOMI」で連載中だ。ジャックとラリーが立ち向かうトラブルや事件の多くにかかわる“黒衣の男”。彼の正体と目的とは――。静かに微かな違和感が広がりつつある紐育で、これから“稲妻”ジャックたちがどのようなイカした活躍をするのか、目が離せない。

文=古林恭

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