極道×強制婚約×三角関係のラブコメマンガ。不穏な最新刊では「ヒロインの父親の変死」がふたりの運命を変えたことが明らかに!?

マンガ

更新日:2023/12/12

来世は他人がいい
来世は他人がいい』(小西明日翔/講談社)

 極道の世界とラブコメというと、一瞬かみ合わないような印象を受けるかもしれない。しかしキャラが魅力的で、彼らがかき回す展開が面白ければ、それは斬新な作品として受け止められる。『来世は他人がいい』(小西明日翔/講談社)はまさにそういう漫画である。

 この物語は、ヤクザの祖父を持つ染井吉乃(そめい・よしの)と、祖父の友人のヤクザの血縁者である深山霧島(みやま・きりしま)が不可解な婚約をさせられて、吉乃が大阪から東京に引っ越すところから始まる。霧島の得体のしれない怖さと、吉乃に片思いをしている時の甘い表情のギャップ、吉乃の決して守られるだけのヒロインでは終わらないずば抜けた気の強さ……。そして吉乃を巡って霧島とライバル関係になるクールな鳥葦翔真(とりあし・しょうま)もこのふたりの関係を深掘りするにあたって重要なキャラだ。翔真は吉乃とは血のつながらない家族だが、吉乃に危険が迫った時にだけ熱くなる男性である。そういったメインキャラの個性や独特の関係があるからこそ、この物語は魅力あるものとして読者の目に映るのだ。極道という題材にプラスされたラブコメらしい三角関係は、特に女性読者をときめかせている。反響が反響を呼び、まだ8巻までしか出ていないのにもかかわらず、累計発行部数は既に280万部を突破している。

 本作の軸となる謎のひとつは、霧島の過去だ。彼の得体のしれなさの正体とは、いったい何なのか。前巻7巻の最大の見どころは霧島の過去が明かされるところだろう。

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 小学生時代の霧島は周囲に関心のない子どもだった。一方でよく小学校でもめごとを起こし、いじめの対象になっていた。この当時の霧島が実の両親と住んでいるのも着目したい点である。この直後、霧島は事件を起こすのだが、それからどのような経緯で、大叔父でヤクザの深山萼(みやま・がく)と知り合ったのか、いつから吉乃に興味を抱くようになったのかが、細部まで描かれている。どのような人間も、過去が連なって今の自分に辿り着く。霧島の場合、この小学生時代の一時期と、吉乃を知った瞬間は人生において非常に大きなものだったことがうかがえる。

 紆余曲折を経て霧島を引き取った萼は、成長して高校生になった霧島を吉乃の祖父のヤクザ・染井蓮二(そめい・れんじ)に会わせて、建前上吉乃と婚約するよう命令する。霧島が理由を尋ねるとはね返し、萼は淡々と述べる。

こいつは俺の所有物だ 俺が死ねと言えば死ぬ そういう条件でうちに来たんだよ

 霧島と会話したあと、蓮二も言う。

吉乃が死ぬときは お前が死ぬときやと思え

 霧島が吉乃を守ることは、霧島にとって命をかけなければならないことだった。蓮二には思惑があるのだが……。8巻で鍵になるもう一つのポイントは、吉乃の父、つまり蓮二の息子が、吉乃が生まれる前に変死したことだ。伏線はずっと張られていたが、初めて吉乃も父の死因に思いを巡らせることになる。

 前巻(7巻)では、吉乃が祖父の蓮二の殺害を企てるアザミという男に拉致され、最終的に霧島が助けに来て逃げることができたが、霧島は深い傷を負った。8巻でアザミはほぼ登場しないが、霧島がいながら吉乃が命の危機に瀕したことは大きい。蓮二も黙ってはいないだろう。そしてこの事件を機に、霧島と吉乃の関係は大きく変わることになりそうだ。吉乃は条件をのむかたちで霧島と付き合ってはいたが彼を恋愛対象と見なしていなかった。吉乃の感情がどう変化するのかも、今後のひとつのポイントになるかもしれない。

 1巻を読めば2巻が読みたくなり、2巻を読めば自然と3巻に手を伸ばしてしまう。息もつかせぬ展開で本作は8巻まで続いてきた。これから1巻から8巻までを読める人をうらやましく思う。読み始めると、恐らくひとつの転換点を迎える9巻発売の前に、いっきに既刊を読破してしまうはずだ。

文=若林理央

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